腸内細菌で筋力が変わる?高齢者は菌の有無で握力29%差、マウスでは約30%向上
腸内細菌「ロゼブリア・イヌリニボランス」を持つ高齢者は、持たない高齢者より握力が29%高く、マウスではこの菌の投与で握力が約30%向上した。ただしヒトの結果は観察研究による関連で、菌が筋力を上げるという因果関係は証明されていない。
腸内細菌の一種「ロゼブリア・イヌリニボランス(Roseburia inulinivorans)」を持つ高齢者は、持たない高齢者より握力が29%高かった。オランダとスペインの研究チームが、ヒト123人の観察研究とマウス実験の結果を2026年3月、英医学誌「Gut」(BMJグループ)に発表した。マウスではこの菌を与えると前脚の握力が約30%向上した。
どんな研究か? ヒトとマウスの2本立て
研究はマルティネス=テジェス(B. Martinez-Tellez)氏らによるもので、ヒトの観察研究とマウスの実験を組み合わせている。
| 項目 | ヒトの研究 | マウスの実験 |
|---|---|---|
| 対象 | 健康な若年者90人(18〜25歳)と高齢者33人(65歳以上) | 抗菌薬で腸内細菌を減らしたマウス32匹(4群) |
| 方法 | 便中の細菌を調べ、握力・レッグプレス・ベンチプレス・最大酸素摂取量を測定 | 8週間、週1回ロゼブリア属の菌を投与 |
| 主な結果 | 菌を持つ高齢者は握力が29%高い | R. inulinivorans投与で前脚の握力が約30%向上(4・6・8週目) |
腸内細菌で筋力は上がるのか? 結果の中身
ヒトでは、高齢者のうちこの菌が検出された人の握力が、検出されなかった人より29%高かった。若年者でも、菌の量が多いほど握力や最大酸素摂取量が高い傾向がみられた。ロゼブリア属の中でも、種類によって関係する筋力の側面が異なっていたという。
マウスでは、R. inulinivoransを与えた群で前脚の握力が4週目、6週目、8週目のいずれも約30%高かった。筋線維は太くなり、瞬発的な力を出す速筋線維(タイプII)の割合が増えていた。代謝物の分析では、盲腸や血液中のアミノ酸濃度が下がる一方、筋肉ではプリン代謝やペントースリン酸経路と呼ばれる代謝経路が活発になっていた。
筋肉の衰えと生活習慣の関係については、超加工食品と太ももの筋肉内脂肪を調べたMRI研究も参考になる。
この研究の限界は?
- ヒトの研究は観察研究で、菌を持つことと握力の高さに「関連」があることを示したにすぎず、菌が筋力を上げたという因果関係は証明されていない。
- 高齢者は33人と少ない。
- 研究チームは、ヒト由来のロゼブリア属がマウスの腸に定着しなかった点や、炎症・神経と筋肉の信号の経路を直接調べていない点を限界に挙げ、長期の追跡研究が必要だとしている。
よくある質問
ロゼブリア・イヌリニボランスはサプリで取れる?
現時点でこの菌の効果をヒトで確かめた介入試験はなく、筋力のために摂取を勧められる段階ではない。
腸内細菌を整えれば筋トレしなくても筋力はつく?
この研究はそれを示していない。ヒトでは関連がみられただけで、筋力を伸ばす方法として根拠が確立しているのは筋力トレーニングとたんぱく質の摂取である。
なぜ握力が注目されるのか?
握力は全身の筋力の目安として使われ、高齢者の筋肉の衰え(サルコペニア)の評価にも用いられる指標だからである。
KINNIKU TIMESの視点
「腸と筋肉がつながっている」という腸・筋肉軸の考え方を、特定の菌の種類まで絞り込んで示した点が新しい。ただし、ヒトでの結果は関連にとどまり、菌を増やせば筋力が上がると言える段階ではない。今できるのは、筋トレを続けながら、野菜や穀物など食物繊維を含む食品を含めたバランスのよい食事をとることだ。高齢の家族がいる人は、サルコペニアと筋トレのメタ分析もあわせて読んでほしい。
出典:BMJ Group プレスリリース(2026年3月11日)/Martinez-Tellez B, et al. Gut(2026年3月10日オンライン公開)doi:10.1136/gutjnl-2025-336980/ScienceDaily(2026年8月21日)