筋トレを休んでも筋肉が早く戻る「マッスルメモリー」の科学とは
筋トレを1〜2週間休んでも、筋力・筋量の低下は軽微との研究がある。
マウス実験では、過負荷で増えた筋核が訓練停止後も長期間保持されると報告されている。
筋トレを1〜2週間ほど休んでも、筋力や筋量の低下はごくわずかであることが複数の研究で確認されている。さらに、マウスを使った実験では、過負荷トレーニングによって筋線維に取り込まれた「筋核」が、トレーニングをやめた後も長期間保持され続けることが示された。これは、いったん獲得した筋肉が再開時に早く戻る「マッスルメモリー(筋肉の記憶)」という考え方の、細胞レベルの根拠の一つとされている。
「マッスルメモリー」とは何か
マッスルメモリーとは、過去にトレーニングで獲得した筋肉が、何らかの理由で一時的に失われても、再開したときに元のレベルまで比較的早く戻る現象を指す通称である。学術的には、運動学習による神経系の記憶(フォームや動作パターンの習熟)と、筋細胞そのものに残る変化という、2つの異なる意味で使われることが多い。今回扱うのは後者、筋細胞レベルの記憶に関する研究である。
マウス実験で示された「筋核」が保持される仕組み
ノルウェー・オスロ大学のBruusgaard氏、Johansen氏、Egner氏、Rana氏、Gundersen氏らの研究チームは、2010年に学術誌Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)に、マウスの筋肉を対象にした研究を発表した。この研究では、過負荷運動によって筋線維に新しい「筋核」が取り込まれたあと、筋線維が肥大し、過負荷を停止したあとも相当期間にわたってこれらの筋核が保持され続けることが、細胞のイメージング技術によって示された。研究チームは、この保持された筋核が、筋肉が萎縮する速度を遅らせる一因になっているとみている。ただし、この研究はあくまでマウスを対象にした動物実験であり、ヒトでそのまま同じ現象が起きると断定するものではない点には注意が必要である。
ヒトではどうか、短期間の休養での実際の変化
ヒトを対象にした研究としては、Mujika氏とPadilla氏が2000年に学術誌Sports Medicine(Vol.30(2), 79-87)に発表したレビュー論文が参考になる。同論文によれば、トレーニングを積んだ選手が2週間トレーニングを中断した場合、ベンチプレス・スクワット・等尺性の膝伸展力では、軽微で統計的に有意とまでは言えない低下にとどまった一方、大腿直筋の筋電図(EMG)活動や等速性の下肢伸展力では8〜13%の有意な低下がみられたと報告されている。筋線維の横断面積についても、サッカー選手やウェイトリフターでは主に速筋線維の面積が減少したとされる一方、長距離選手では変化がない、またはわずかに増加する場合もあったという。つまり、短期間(2週間程度)の休養による筋力・筋量への影響は、種目や測定方法によって差はあるものの、全体としては限定的だといえる。
再開後の伸びが速く感じられるのはなぜか
マッスルメモリーが実感されやすいのは、休養明けの「戻り」の速さである。考えられる要因は複数ある。第一に、前述のマウス研究が示すように、獲得していた筋核が保持されていれば、筋肉が再び大きくなる際の土台がすでに整っている可能性がある。第二に、動作パターンや神経系の慣れ(運動学習)が残っているため、フォームの再習得にかかる時間が短い。第三に、一度でも高い負荷に適応した経験があることで、心理的なハードルが低くなることも考えられる。ただし、これらの要因がどの程度ずつ関与しているかを定量的に切り分けた決定的な研究は、現時点では確認できていない。
よくある質問
1〜2週間トレーニングを休むと、筋肉は大きく落ちるか
Mujika・Padillaのレビューによれば、2週間程度の休養では筋力の低下は軽微なものが多く、大きく落ちるとは言いにくい。体調不良やけが、旅行などでの短い休養を過度に心配する必要はない。
マッスルメモリーはどれくらいの期間、効果があるのか
マウス実験では「相当期間」筋核が保持されると報告されているが、具体的に何ヶ月・何年という期間をヒトで示した決定的な研究は確認できていない。長期間のブランクがある場合の影響については、今後の研究を待つ必要がある。
KINNIKU TIMESの視点
短い休養で筋肉が全て失われるわけではないという知見は、怪我や体調不良、繁忙期などで思うようにトレーニングできない人にとって安心材料になる。一方で、今回取り上げたマウス実験の結果を、そのままヒトの長期的な休養に当てはめて「何年休んでも戻る」と考えるのは早計である。関連して、筋トレ後の休養日の重要性についての解説記事も参考にしてほしい。
出典:Bruusgaard JC, Johansen IB, Egner IM, Rana ZA, Gundersen K. "Myonuclei acquired by overload exercise precede hypertrophy and are not lost on detraining." Proceedings of the National Academy of Sciences, 2010/ScienceDaily「研究概要の報道記事」(2010年8月19日)/Mujika I, Padilla S. "Detraining: Loss of Training-Induced Physiological and Performance Adaptations. Part I." Sports Medicine, 2000, 30(2), 79-87
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