THE MUSCLE NEWSPAPER
KINNIKU TIMES › 論文解説・新常識  › 記事
論文解説・新常識速報

禁止薬物クレンブテロールの筋肉は残る?32人の試験、休止16週で除脂肪量の差は消失

公開 ・ KINNIKU TIMES 編集部 ・ 読了目安 4分
ジムに置かれたバーベルのモノクロ写真
SUMMARY|この記事の要約

禁止物質クレンブテロールを使いながら8週間筋トレすると、除脂肪量は偽薬より1.7kg多く増えたが、16週間の休止後にその差は消えた。32人の二重盲検試験で、レッグプレスなど一部の筋力の差は休止後も残った。

ドーピング禁止物質クレンブテロールは筋トレによる筋肉と筋力の伸びを大きく押し上げたが、使用をやめて16週間トレーニングを休むと、除脂肪量の差は消えた。デンマークのコペンハーゲン大学の研究チームが健康な成人32人で行った二重盲検ランダム化比較試験の結果を、2026年9月12日に学術誌『Sports Medicine』で発表した。一部の筋力の差は休止後も残っており、アンチ・ドーピングの観点からも注目される結果である。

黒い床に置かれたダンベル
写真はイメージです(Unsplash)

クレンブテロールとはどんな物質か?

クレンブテロールは、気管支を広げる作用をもつβ2刺激薬の一種である。世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の禁止表では、他のβ2刺激薬とは別に「蛋白同化薬」に分類されている。今回の試験は研究目的で行われたものであり、使用を勧めるものではない。

試験の方法は?32人を「筋トレ→休止→再開」で追跡

筆頭著者はルーカス・モースゴー(Lukas Moesgaard)氏で、モーテン・ホストルプ(Morten Hostrup)氏ら計8人が著者に名を連ねる。2023年3月〜2025年3月に、健康な男性16人(平均26歳)と女性16人(平均25歳)を、クレンブテロール群(1日80μg)と偽薬群に16人ずつ割り付けた。31人が試験を完了した。

期間 内容
第1期(8週間) 週3回の筋トレ(7種目×3セット、8〜12回を限界まで)+クレンブテロールまたは偽薬
第2期(16週間) トレーニングも服用も休止
第3期(8週間) 服用なしでトレーニングを再開

体組成はDXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)、筋力はレッグプレスとベンチプレスの1RM(1回挙上できる最大重量)で評価した。

結果は?除脂肪量は1.7kg多く増えたが、休止後に差は消えた

時期 クレンブテロール群と偽薬群の比較
筋トレ8週間後 除脂肪量は+1.7kg、ベンチプレス1RMは+6kg、レッグプレス1RMは+16kg、偽薬群より多く増加。体脂肪量の減少には差なし
休止16週間後 除脂肪量・ベンチプレスの低下はクレンブテロール群の方が大きく、偽薬群との差は消失。レッグプレスのみ差が残った
再開8週間後 除脂肪量とレッグプレスの伸びに差なし。ベンチプレスの伸びはクレンブテロール群が3kg大きかった

除脂肪量とベンチプレスへの上乗せ効果は、女性より男性で大きかった。副作用として、筋肉のふるえや心拍数の増加がクレンブテロール群の12人にみられた(偽薬群は2人)。著者らは「クレンブテロールはトレーニングによる除脂肪量と筋力の向上を著しく増強する。中止後、過去の使用は再トレーニング時の除脂肪量の増加を高めないが、筋力面の一部の優位は残る」と結論づけている。

この研究の限界は?

副作用によって参加者が自分の群に気づき、盲検性が損なわれた可能性がある。男女別の分析は人数が少ない。対象はトレーニング習慣のない若い成人で、トレーニング経験者や高齢者、病気のある人に当てはまるかは分からないと著者は述べている。

よくある質問

クレンブテロールで増えた筋肉は残りますか?

この試験では、16週間の休止後に除脂肪量の差は偽薬群となくなった。再開後の筋肉の増え方にも差はなかった。

クレンブテロールはスポーツで使えますか?

使えない。WADAの禁止表で常に禁止される蛋白同化薬に分類されており、副作用もある。

筋肉の「マッスルメモリー」は薬の影響も受けますか?

除脂肪量については、過去の使用が再トレーニング時の増え方を高めることはなかった。ただしレッグプレスの差は休止後も残り、ベンチプレスは再開後の伸びが大きかった。

KINNIKU TIMESの視点

この試験が示したのは、薬で上乗せした筋肉は、トレーニングと使用をやめると維持されにくいということだ。トレーニングを休んだ後でも筋肉が戻りやすい「マッスルメモリー」については、薬を使わない研究でも報告がある(休んでも筋肉は「覚えている」)。まずは継続できる頻度と量でトレーニングを積み、たんぱく質と睡眠を確保することが、長く使える筋肉への近道である。

ネットでは筋肉を増やすとうたう物質の情報が多いが、人での根拠が乏しいものや禁止物質も含まれる。気になる成分がある場合は、ペプチドの研究をまとめた記事のように、人での試験があるか、安全性はどうかを確かめたい。


出典:Moesgaard L, et al. Sports Medicine(2026年9月12日)