新薬ATR-258、減量中も筋力維持 下肢パワー13%向上と発表
スウェーデンのバイオテック企業アトロジーが、開発中の経口薬「ATR-258」の初期臨床試験で、過体重・肥満の13人を対象に下肢の筋パワーが約13%向上し、体脂肪量が平均1.1kg減少したと発表した。
除脂肪量も平均0.8kg増加し、2027年開始予定の第2相試験に進む計画だが、対象者が少なくプラセボ対照もない初期データである点には留意が必要だ。
過体重・肥満者13人を対象にした8週間の試験で、下肢の筋パワーが平均で約13%向上し、体脂肪量は平均1.1kg減少、除脂肪量は平均0.8kg増加したとの結果が示された。スウェーデンのバイオテック企業アトロジー(Atrogi AB、本社ストックホルム)が2026年10月1日(日本時間同日19時30分、現地12時30分)、開発中の経口薬「ATR-258」の臨床試験データを発表した。
ATR-258とはどんな薬か
ATR-258は、1日1回経口投与する、骨格筋を標的とした低分子化合物である。アトロジー社は「GRK2バイアス型β2アドレナリン受容体モジュレーター」と説明しており、心臓への刺激シグナルを経由せずに骨格筋側の代謝経路を活性化させることを狙った、同種で初めての(first-in-class)治療薬候補だとしている。あくまで研究段階の未承認薬であり、現時点で販売・処方されている医薬品ではない。
13人の試験で確認されたこと
今回発表されたのは、過体重または肥満だが他に持病のない13人を対象にした、研究者主導(investigator-initiated)の非盲検・単群・用量漸増(3段階)試験で、臨床試験登録番号はNCT07421024。期間は8週間だった。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 対象者・デザイン | 過体重・肥満の13人、非盲検・単群、3段階の用量漸増、8週間 |
| 安全性 | 全3用量で忍容性は良好(重大な有害事象の報道なし) |
| 下肢の筋パワー | ベースラインから約13%向上(統計的に有意) |
| 体脂肪量 | 平均1.1kg減少(統計的に有意) |
| 除脂肪量 | 平均0.8kg増加(統計的に有意) |
試験責任者を務めたコペンハーゲン大学のモーテン・ホストラップ(Morten Hostrup)教授は「最も驚いたのは、下肢パワーに表れた効果の大きさだった」と述べ、古典的なβ2作動薬で見られる効果より大きいと指摘している。アトロジー社の共同創業者で最高科学責任者のトーレ・ベングトソン(Tore Bengtsson)教授は、脂肪減少と除脂肪量増加、身体機能向上が同時に示された点を「差別化されたプロファイル」と評した。
2025年の先行試験との関係
アトロジー社によると、2025年6月に学術誌『Cell』に掲載された第1相試験では、健康なボランティアと2型糖尿病患者を合わせた69人を対象に、GRK2バイアス型のシグナル伝達アプローチの安全性・忍容性がヒトで初めて確認されたとされる。今回の13人の試験は、この第1相試験の流れを受けて、過体重・肥満者における効果の仕組み(プルーフ・オブ・メカニズム)を確認する位置づけだという。
今後の予定と、この試験の限界
アトロジー社のCEOポール・リトル(Paul Little)氏は、今回のデータを踏まえて2027年に第2相試験を開始する計画を明らかにした。詳細な結果は、2026年12月10〜12日に米国ワシントンD.C.で開かれる国際カケキシア・サルコペニア・筋萎縮会議で発表される予定である。
一方で、今回の試験は対象者が13人と少なく、プラセボ(偽薬)群を置かない非盲検・単群デザインである点には注意が必要だ。アトロジー社自身も、効果の評価には限界があるとしている。GLP-1薬(オゼンピックなど)と併用した場合の効果は、今回の試験では確認されていない。
よくある質問
ATR-258は今すぐ購入・使用できますか?
できない。研究段階にある未承認の医薬品候補であり、第2相試験は2027年に開始予定の段階である。一般向けに販売・処方されている薬ではない。
既存のプロテインやサプリメントで同じ効果が得られますか?
今回の発表はATR-258という医薬品候補に関するものであり、市販のサプリメントの効果を示すものではない。減量中の筋肉量維持について薬を用いた対応を考える場合は、自己判断せず医師に相談してほしい。
KINNIKU TIMESの視点
GLP-1薬の普及で急速に減量する人が増える中、「脂肪は減らしても筋肉は残したい」というニーズに応える薬剤開発が進んでいることを示す発表だ。ただし今回はまだ13人規模の初期データであり、実用化にはさらに大規模な試験が必要になる。今のところ、減量中に筋肉量を守る確実な方法は、十分なたんぱく質摂取とレジスタンストレーニング、無理のない減量ペースを守ることに変わりはない。大会前の減量ペースの目安については、ナチュラル・ボディビルの減量ペースに関する解説記事も参考にしてほしい。
出典:Atrogi AB プレスリリース(2026年10月1日)/Flerie AB プレスリリース配信(MFN、2026年10月1日)/Generation Iron(2026年10月9日)/コペンハーゲン大学 研究者プロフィール:Morten Hostrup
コメント
この記事について思ったことを書けます。誤解を招くのを避けるため、誘導のある宣伝、他者への中傷、個人情報、法令に反する内容は公開しません。体調や治療に関わる判断は、必ず専門家にご相談ください。