筋トレのベルトは本当に必要か NSCA専門誌が効果とリスクを検証
重量挙げ用のトレーニングベルトは、健康な人の日常的なトレーニングでは着用を推奨しないというのがNSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)の見解である。ベルト着用時は血圧が最大15mmHg上昇するとの報告があり、効果とリスクの両面が指摘されている。
重量挙げ用のトレーニングベルトは、健康な人の日常的なトレーニングでは着用を推奨しないというのが、NSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)が2005年に公表した見解である。例外は、競技として極端な高重量を扱うリフティングの場面に限られるとされている。
NSCAは何を根拠にベルトを推奨していないのか
この見解は、NSCAが専門家向けに発行する「Hot Topic Series」の一編、スチュアート・M・マッギル氏(カナダ・ウォータールー大学の脊柱生体力学研究者)による論文「On The Use Weight Belts」(2005年3月発表、同年9月改訂)にまとめられている。論文は、ベルトが腹腔内圧(IAP)と血圧を上昇させる一方、腰椎への負荷を必ずしも減らさないと論じている。
ベルトを着けると血圧はどう変わるのか
ハンターらによる1989年の研究(被験者は男性5名・女性1名)では、ベルトを着用してデッドリフトなどを行った際、血圧が着けない場合より最大15mmHg高くなり、心拍数も有意に高くなったと報告されている。ラファツとマッギルによる1996年の研究も、拡張期血圧が上昇するという同様の結論を支持している。
「腰への負担が減る」という考えは正しいのか
「腹腔内圧が上がれば腰椎にかかる圧縮荷重が減る」という従来の考え方について、論文は誤りだと指摘している。マッギルとノーマンによる1987年の研究では、腹腔内圧を高めるには腹壁の筋肉を追加で働かせる必要があり、結果として腰椎の圧縮荷重はむしろ正味で増えると示された。ナケムソンらによる1986年の研究(直接測定)でも、腹腔内圧の上昇が椎間板内の圧力と腰椎の圧縮荷重を増やすことが確認されている。ただし、グラナータらによる1997年の研究では、硬性の整形外科用ベルトは持ち上げ時のモーメントを増やした一方、伸縮性のベルトは脊柱への負荷全体を減らしたとも報告されており、ベルトの種類によって結果が分かれる点には注意が必要である。
記録が伸びるのは効果なのか、思い込みなのか
論文によれば、ベルトは体幹の弾性反跳を介して数ニュートンメートル程度のトルクを追加しうるが、脊柱を中立位に保つ場合はこの効果は小さくなるという。一方、マッコイらによる1988年の心理物理学的研究では、ベルトを着けた被験者は着けない場合より約19%多く持ち上げようとする意思を示した。論文はこれを、ベルトによる「安心感からの過信」を支持する根拠として挙げている。また、腹腔内圧の上昇が脊柱起立筋の活動量そのものを変えるという見解は、マッギルらによる1990年の研究で否定されている。
ケガの予防効果は確認されているのか
論文は、ベルトがケガを防ぐ効果は、それまでケガをしていない人では確認されていないとしている。むしろベルトを着けている最中にケガをすると、より重症になるおそれがあるという。ベルト使用後の期間はケガのリスクが高まる可能性や、腰痛の治療費がかさむ可能性にも触れている。すでに腰を痛めたことがある人の再発予防については、弱い根拠があるとされている。速度を重視するプライオメトリクスなどのトレーニングにはベルトは不向きとされ、体幹の安定性そのものを鍛えたい場合は、ベルトを使わずに体幹を鍛えることが推奨されている。
| 研究 | 被験者 | 主な結果 |
|---|---|---|
| ハンターら(1989) | 男性5名・女性1名 | ベルト着用時に血圧が最大15mmHg上昇 |
| マッギル&ノーマン(1987) | - | 腹腔内圧上昇で腰椎圧縮荷重はむしろ正味で増加 |
| ナケムソンら(1986) | - | 腹腔内圧上昇が椎間板内圧・腰椎圧縮荷重を増加(直接測定) |
| マッコイら(1988) | - | ベルト着用時に約19%多く持ち上げる意思を示す(心理物理学的評価) |
よくある質問
高重量を扱う日は着けたほうがいいのか
論文は、極端な高重量を扱う競技的なリフティングに限り、体幹の安定性を高めケガのリスクを下げる効果があるとしている。日常的なトレーニングでの常用は推奨されていない。
血圧が高めの人は注意が必要か
ベルト着用時は血圧・心拍数が上がりやすいと報告されているため、高血圧など持病がある場合は、着用の可否も含めて医師に相談することが望ましい。
腰痛持ちの人が着けるのは効果があるのか
すでに腰を痛めたことがある人の再発予防については弱い根拠があるとされているが、強い推奨ではない。腰に不安がある場合は自己判断せず専門家に相談したい。
KINNIKU TIMESの視点
ベルトは「着ければ安全」という道具ではなく、使い方次第で思わぬ過信につながりうる点が今回の論文の核心である。高重量種目に挑戦する前に、まずは軽めの重量で体幹を締める感覚そのものを身につけ、ベルトはあくまで補助として位置づけたい。腰に不安がある人や血圧に持病がある人は、自己判断でベルトを使う前に、医師やトレーナーに相談することをおすすめする。
出典:Stuart M. McGill「On The Use Weight Belts」NSCA Hot Topic Series(2005年3月、2005年9月改訂)
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