高重量リフティングの息こらえ「バルサルバ法」、効果とリスクを正しく知る
高重量を扱う瞬間に思わず息を止める「バルサルバ法」は体幹を安定させる一方、血圧を一時的に大きく押し上げる。実験では重量挙げ中の血圧が平均320/250mmHgに達し、一部では480/350mmHgを超えたとの報告もある。
健康な人が短時間・単発で使う分には有用性が認められているが、高血圧や心疾患がある人は自己判断で高重量に挑まず、医師に相談したうえで取り組むことが望ましい。
高重量を持ち上げる瞬間に思わず息を止めてしまう「バルサルバ法」は、体幹を安定させて力を発揮しやすくする一方、血圧を一時的に大きく押し上げることが古くから報告されている。スクワットやデッドリフト、ベンチプレスなど限界に近い重量を扱う種目に取り組む人は、その仕組みとリスクを正しく知っておく必要がある。
バルサルバ法とは何か、なぜ高重量種目で使われるのか
バルサルバ法とは、声門(のど)を閉じた状態で強く息を吐こうとすることで、胸腔内と腹腔内の圧力を一時的に高める動作である。この腹腔内圧の上昇が体幹を内側から支える「天然の腹圧ベルト」のような役割を果たし、背骨にかかる負担を和らげながら、より大きな力を出しやすくすると考えられている。スクワットやデッドリフトのように体幹の安定が求められる種目で、経験者が無意識のうちにこの呼吸法を使っているのはこのためである。
血圧はどれくらい上がるのか
カナダ・マクマスター大学のマクドゥーガル氏らの研究チームが1985年、米国の学術誌『Journal of Applied Physiology』に発表した研究では、経験豊富なボディビルダー5人にカテーテルを挿入して、限界に近い重量を挙げている最中の血圧を直接測定した。その結果、レッグプレスでは血圧が平均320/250mmHgに達し、被験者によっては480/350mmHgを超える値も記録されたという。片腕カールでも平均255/190mmHgに達したと報告されている。安静時の一般的な血圧(収縮期120mmHg前後)と比べると、瞬間的に数倍の水準まで跳ね上がる計算になる。
| 種目 | 血圧(収縮期/拡張期、平均) |
|---|---|
| レッグプレス | 320/250mmHg(一部480/350mmHg超) |
| 片腕カール | 255/190mmHg |
息の止め方によっても差が出る
呼吸の仕方そのものによる違いを調べた研究もある。米国の研究チームが1992年に英国の学術誌『British Journal of Sports Medicine』に発表した研究では、初心者の男性ウエイトリフター20人に、片腕カールと膝伸展の運動を、バルサルバ呼吸(息を止める)・吸気を保持する呼吸・呼気をともなう呼吸という3種類の方法で行わせ、血圧を比較した。その結果、3つの呼吸法のなかでバルサルバ呼吸がもっとも高い血圧反応を示したと報告されている。息を止める度合いが強いほど、血圧の上昇も大きくなる可能性を示す結果といえる。
誰が注意すべきか、リスクを抑えるための基本
高血圧や心血管疾患の持病がある人、高齢者は、血圧が瞬間的に大きく跳ね上がるこうした動作について特に注意が必要とされる。持病がある人が高重量種目に取り組む場合は、事前に医師に相談することが望ましい。長く息を止め続けるのではなく、もっとも力を要する瞬間だけ短く圧を高め、動作の山を越えたら徐々に息を吐いていく使い方が、リスクを抑えるうえでの基本とされている。めまいや目の前が暗くなる感覚がある場合は、無理に続けずすぐに重量を下ろすべきである。
初心者はどう呼吸を覚えればよいか
いきなり限界重量でバルサルバ呼吸を試すのではなく、まずは軽め〜中程度の重量のうちから、力を入れる局面で軽く圧をかけ、動作が終わる頃には息を吐き切るリズムを、コーチや経験者に確認しながら体に覚えさせたい。フォームと呼吸のタイミングが安定してから、徐々に重量を上げていくのが安全な順序である。
よくある質問
バルサルバ法は危険だから使うべきではないのか
健康な人が短時間・単発の最大努力で使う分には有用性が認められている。ただし血圧が大きく上がる動作である以上、高血圧や心疾患がある人、高齢者は自己判断で高重量に挑戦せず、事前に医師に相談したうえで取り組むべきである。
軽い重量のときも息を止めるべきか
研究が対象としているのは主に限界に近い高重量を扱う場面である。ウォームアップや軽い重量では、無理に息を止めず、自然な呼吸を続けるほうが安全だと考えられている。
KINNIKU TIMESの視点
バルサルバ法は「息を止めれば強い力が出る」という単純な話ではなく、体幹の安定と血圧上昇という裏表の性質を持つ呼吸法である。フォームが固まっていない段階で見よう見まねで使うより、まずは軽い重量で圧のかけ方を体に覚えさせ、限界重量に挑む場面は経験を積んでからにするのが安全な順序といえるだろう。トレーニング中の労作感の管理については、KINNIKU TIMESのRPE・RIRの使い方を解説した記事もあわせて参考にしてほしい。
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出典:MacDougall JD, Tuxen D, Sale DG, Moroz JR, Sutton JR. Arterial blood pressure response to heavy resistance exercise. Journal of Applied Physiology, 58(3):785-790(1985)/Linsenbardt ST, Thomas TR, Madsen RW. Effect of breathing techniques on blood pressure response to resistance exercise. British Journal of Sports Medicine, 26(2):97-100(1992)
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