筋トレの呼吸法 下ろすときに吸い挙げるときに吐く、息を止める危険を研究で解説
筋トレ中はいつ吸っていつ吐くのか。息こらえとゆっくり吐く方法で血圧を比べた研究、米国心臓協会の声明、バルサルバ法の総説をもとに、呼吸の手順、種目別のタイミング、高重量での注意点をまとめた。
筋トレの呼吸法の基本は、「下ろすときに吸い、持ち上げるときに吐く」こと、そして息を長く止めないことである。息を止めて力むと血圧が大きく上がり、吐きながら挙げると上昇がかなり抑えられることが研究で示されている。高重量では、短く息をこらえて体幹を固める「バルサルバ法」が使われるが、これは経験者向けの方法で、初心者や血圧が高い人は避ける。
筋トレの呼吸法の基本は?
力を出す局面(持ち上げる・押す・引く)で吐き、力を抜いて戻す局面(下ろす)で吸う。米国心臓協会(AHA)の2007年の科学的声明(Williamsら、『Circulation』)は、心臓病のある人とない人の筋トレについてまとめたもので、持ち上げる局面で息を吐き、下ろす局面で吸うことで、息こらえと力みを防ぐよう勧めている。
吐くことは力の発揮にも不利ではない。Ikedaらの2009年の研究(『Journal of Strength and Conditioning Research』)では、10人が膝・肩・肘の最大の等尺性筋力(関節を動かさずに出す力)を、普通の呼吸、強く吸う、強く吐く、息こらえ(バルサルバ)の4条件で測った。強く吐く条件は、肩を内側に寄せる力、肘を伸ばす力、膝を伸ばす力で最大筋力を高め、息こらえとの差はどの筋群でもなかった。著者らは、心血管への負担を考えて、最大に近い力を出すときは強く吐く呼吸を勧めている。
息を止めて筋トレするとどうなる?
血圧が非常に高くなる。MacDougallらの1985年の研究(『Journal of Applied Physiology』)は、経験のあるボディビルダー5人の腕の動脈に直接センサーを入れて、最大挙上重量の80〜100%で限界まで行ったときの血圧を測った。両脚のレッグプレスでは最高血圧の平均が320/250mmHgに達し、1人は480/350mmHgを超えた。片腕のダンベルカールのような小さな筋肉の種目でも、限界まで続けると平均255/190mmHgに達した。
呼吸のしかたで、この上昇はかなり抑えられる。NarlochとBrandstaterの1995年の研究(『Archives of Physical Medicine and Rehabilitation』)では、男性アスリート10人が最大重量のレッグプレスを、声門を閉じて息をこらえる方法と、挙げる局面でゆっくり吐く方法で行った。息こらえでは平均311/284mmHgだったのに対し、ゆっくり吐いた場合は平均198/175mmHgだった。最大の85%の重さでも、吐く方法のほうが血圧の上昇は小さかった。
高重量で息を止める「バルサルバ法」は使ってもいい?
経験者が高重量で短時間だけ使う方法であり、初心者がまず覚える呼吸ではない。HackettとChowの2013年の総説(『Journal of Strength and Conditioning Research』)は、最大の80%を超える高重量や、軽めの重さでも限界近くまで行うときには、短い息こらえが避けられないと述べている。息をこらえると腹の中の圧力(腹腔内圧)が高まり、背骨の安定や体幹の固さを助ける可能性がある一方、血圧も上がる。総説は、健康リスクについては確認されていないとしつつも、慎重に扱うべき方法と位置づけている。
使う場合も、息をこらえるのは1回の挙上の最も苦しい区間だけにとどめ、レップの合間には毎回呼吸を入れる。詳しい仕組みと注意点はバルサルバ法の解説、ベルトとの関係は筋トレベルトの解説にまとめている。
正しい呼吸の手順は?
- 構えたら一度息を整える:ダンベルやバーを持ち、姿勢を作ったら、鼻か口から自然に吸って吐き、肩の力を抜く。
- 下ろす局面で吸う:ベンチプレスなら胸に下ろしながら、スクワットならしゃがみながら、お腹をふくらませるように吸う。
- 下で止めすぎない:いちばん低い位置で長く止まると、息をこらえる時間が長くなる。
- 持ち上げながら吐く:最もきつい区間を通りながら、口から「フーッ」と細く長く吐く。一気に吐き切らず、体幹の力は保つ。
- 上で1回呼吸を入れる:挙げ終えた位置で、必要なら小さく1呼吸してから次の回に入る。
- 最後の数回ほど意識する:疲れてくると無意識に息を止めやすい。終盤ほど「吐きながら挙げる」を意識する。
種目ごとの呼吸のタイミングは?
「重さに逆らって動かす局面で吐く」と覚えれば、ほとんどの種目に当てはまる。
- スクワット(Squat):しゃがみながら吸い、立ち上がりながら吐く。フォームはスクワットのやり方を参照。
- ベンチプレス(Bench Press)・腕立て伏せ(Push-up):胸を下ろしながら吸い、押し上げながら吐く。詳しくはベンチプレスのやり方。
- デッドリフト(Deadlift):床から引く前に吸って体幹を固め、立ち上がりながら吐く。下ろす間に次の呼吸を整える。手順はデッドリフトのやり方。
- ロウ(Row)・ラットプルダウン(Lat Pulldown):引きながら吐き、戻しながら吸う。
- プランク(Plank)などの静止する種目:息を止めず、浅くならないように一定のリズムで呼吸を続ける。プランクのやり方も参考になる。
初心者・中級者のメニューと呼吸の例は?
| 対象 | 種目 | 回数 | セット | 休憩 | 呼吸 |
|---|---|---|---|---|---|
| 初心者 | 自重スクワット(Bodyweight Squat) | 12〜15回 | 2〜3 | 1分 | しゃがんで吸う/立って吐く |
| 初心者 | ひざつき腕立て伏せ(Knee Push-up) | 10〜12回 | 2〜3 | 1分 | 下ろして吸う/押して吐く |
| 初心者 | ワンハンドダンベルロウ(One-Arm Dumbbell Row) | 左右各10〜12回 | 2〜3 | 1分30秒 | 引いて吐く/戻して吸う |
| 初心者 | プランク(Plank) | 20〜30秒 | 2〜3 | 1分 | 止めずに一定のリズム |
| 中級者 | バーベルスクワット(Barbell Squat) | 5〜8回 | 3〜4 | 2〜3分 | 吐きながら立つ(高重量は経験者のみ短い息こらえ) |
| 中級者 | ベンチプレス(Bench Press) | 6〜10回 | 3〜4 | 2〜3分 | 下ろして吸う/押して吐く |
| 中級者 | ラットプルダウン(Lat Pulldown) | 8〜12回 | 3 | 1分30秒〜2分 | 引いて吐く/戻して吸う |
重さの決め方はダンベルの重さの選び方で紹介している。呼吸が乱れたまま次のセットに入らないよう、休憩は十分にとる。
呼吸法でよくある間違いは?
- セットの間ずっと息を止める:数回続けて息を止めると、血圧が上がった状態が長く続く。1回ごとに呼吸を入れる。
- 吸うと吐くが逆になる:持ち上げながら吸うと体幹がゆるみやすい。迷ったら「きつい方向で吐く」に戻す。
- 吐き切って体幹が抜ける:一気に全部吐くと腰や背中が丸まりやすい。細く長く吐き、お腹の張りは保つ。
- 呼吸を意識しすぎて動きが速くなる:呼吸に合わせて動作のテンポを落とすくらいでよい。
- 軽い重さでも力んで息を止める:高重量でない日は、息こらえの必要はない。
- 顔が真っ赤になるまで踏ん張る:強い力みのサインである。重さを下げるか、回数を減らす。
安全のための注意点は?
- 高血圧、心臓病、脳血管の病気がある人や、その治療中の人は、息を止めて力む動作を避け、筋トレの内容を医師に相談してから始める。
- 挙げている最中や直後に、強い頭痛、目の前が暗くなる感じ、めまいが出たら、すぐに中止する。
- 胸の痛みや強い息苦しさが出た場合も、ただちに中止し、続くようなら医療機関を受診する。
- 限界まで追い込むセットほど息を止めやすい。初心者は余力を2〜3回残して終える。
- 関節に痛みがある場合は、その種目を中止し、痛みが続くなら医師に相談する。
よくある質問
筋トレでは鼻と口、どちらで呼吸する?
どちらでもよい。下ろす局面は鼻か口で吸い、持ち上げる局面は口から細く長く吐くと、吐くタイミングを意識しやすい。大切なのは息を長く止めないことである。
持ち上げるときに吸うのは間違い?
一般的には、力を出す局面で吐き、戻す局面で吸うことが勧められている。米国心臓協会の声明も、持ち上げる局面で吐き、下ろす局面で吸うことで息こらえを防ぐよう勧めている。
高重量のときは息を止めたほうがいい?
経験者が高重量で短時間だけ息をこらえて体幹を固める方法はあるが、血圧が大きく上がる。初心者、血圧の高い人、持病のある人は避け、吐きながら挙げる呼吸を基本にする。
呼吸を意識すると回数が数えられない
「下ろして吸う、挙げて吐く」を1回と数えると、呼吸と回数が自然にそろう。慣れるまでは軽い重さで、呼吸のリズムだけを練習するとよい。
プランク中の呼吸は?
息を止めず、一定のリズムで浅くならないように呼吸を続ける。お腹に力を入れたまま、胸と脇腹を広げるように吸い、ゆっくり吐く。
KINNIKU TIMESの視点
呼吸法は地味だが、安全に重さを扱うための土台である。研究は、息を止めて力むと血圧が非常に高くなり、吐きながら挙げるとその上昇がかなり抑えられること、吐く呼吸でも力の発揮は損なわれにくいことを示している。まずは「下ろして吸う、挙げて吐く」を軽い重さで体に覚えさせ、終盤ほど呼吸を意識する。高重量での短い息こらえは、フォームが固まった経験者が必要な場面だけで使う技術と考えるのがよい。
出典:Williams ら, AHA Scientific Statement(Circulation, 2007)/MacDougall ら(J Appl Physiol, 1985)/Narloch・Brandstater(Arch Phys Med Rehabil, 1995)/Hackett・Chow(J Strength Cond Res, 2013)/Ikeda ら(J Strength Cond Res, 2009)
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