ストレッチは筋トレの前と後どっち?動的・静的の使い分けと正しい手順を研究で解説
ストレッチは筋トレの前と後、どちらに行うべきか。パフォーマンスへの影響をまとめたレビュー、筋肉痛へのコクラン・レビュー、ACSMの指針をもとに、前と後の手順、時間の目安、部位別メニューをまとめた。
ストレッチは「筋トレ前は動かすストレッチ、筋トレ後は伸ばして止めるストレッチ」と使い分けるのが基本である。筋トレ前は、反動をつけずに関節を大きく動かす動的ストレッチと、種目の軽いセットで体を温める。止めて伸ばす静的ストレッチを前に入れるなら、1部位60秒未満にとどめる。筋トレ後の静的ストレッチは柔軟性を高めるために行うもので、筋肉痛を防ぐ効果はほとんど期待できない。
ストレッチは筋トレの前と後、どっちにやるべき?
目的で分ける。体を動かす準備が目的なら前に動的ストレッチ、柔軟性を高めることが目的なら後か別の時間に静的ストレッチを行う。
Behmらの2016年の系統的レビュー(『Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism』)は、ストレッチ直後のパフォーマンスの変化を、静的ストレッチでマイナス3.7%、動的ストレッチでプラス1.3%、PNFストレッチ(筋肉を収縮させてから伸ばす方法)でマイナス4.4%とまとめた。静的ストレッチでは、1つの筋群あたり60秒以上でマイナス4.6%、60秒未満ではマイナス1.1%と、長いほど低下が大きかった。一方で、ストレッチのあとに動的な運動を加えた研究では明確な低下は見られず、レビューは、ストレッチの後に動的な運動を含むウォームアップを勧めている。
静的ストレッチと筋力低下の関係は83研究のメタ分析の解説、動的ストレッチの効果は動的ストレッチの研究の解説で詳しく紹介している。
筋トレ前のストレッチはどんな手順で行う?
軽い有酸素運動、動的ストレッチ、その日の種目の軽いセットの順に行う。BehmとChaouachiの2011年の総説(『European Journal of Applied Physiology』)は、ウォームアップを、軽めの有酸素運動、大きく動かす動的ストレッチ、競技に近い動きの順で組むよう勧めている。Iversenらの2021年の総説(『Sports Medicine』)も、時間を効率よく使うには、ウォームアップをその種目の軽いセットに絞り、ストレッチは柔軟性の向上が目的のときに優先すればよいとしている。
- 軽い有酸素運動を5分ほど行う:早歩き、バイク、その場での足踏みなどで、少し汗ばむ程度まで体を温める。
- その日に使う関節を大きく動かす:脚の日なら脚の前後振りや股関節回し、上半身の日なら腕回しや胸を開く動きを各10回前後行う。
- 反動は小さく、可動域を少しずつ広げる:勢いで振り回さず、1回ごとに少し大きく動かす。
- 硬さが気になる部位だけ短く伸ばす:静的ストレッチを入れるなら、1部位あたり合計60秒未満(たとえば20〜30秒を1〜2回)にする。
- 最初の種目を軽い重さで1〜3セット行う:本番の半分程度の重さから始め、段階的に近づける。
- 本番のセットに入る:静的ストレッチをした場合も、軽いセットをはさんでから本番に入る。
ウォームアップ全体の考え方はウォームアップの目的と行い方にまとめている。
筋トレ後のストレッチは必要?
筋肉痛やけがを防ぐ目的なら、効果ははっきりしない。柔軟性を高めたい人にとっては、体が温まっている筋トレ後は行いやすいタイミングである。
Herbertらの2011年のコクラン・レビュー(12研究)は、運動後のストレッチで翌日の筋肉痛が100点満点で平均約1点、運動前のストレッチで約0.5点しか減らなかったと報告した。2,377人が参加した大規模な試験でも、運動前後のストレッチによる1週間の最大の痛みの軽減は約4点にとどまり、著者らは臨床的に意味のある効果ではないと結論づけている。Van HoorenとPeakeの2018年の総説(『Sports Medicine』)も、軽い運動によるクールダウンは筋肉痛や筋損傷の指標の回復をほとんど早めないとまとめている。詳しくはクールダウンと筋肉痛のコクラン・レビューの解説を参照してほしい。
柔軟性を高める方法としては、米国スポーツ医学会(ACSM)の2011年の公式見解(Garberら)が、主な筋肉と腱のまとまりごとに合計60秒の柔軟性運動を、週2日以上行うよう勧めている。一般的な成人では、軽い張りを感じるところで10〜30秒保ち、2〜4回くり返す方法が示されている。
筋トレ後のストレッチはどんな手順で行う?
- 息が整うまで数分ゆっくり歩く:心拍が落ち着いてから床に座る。
- その日に鍛えた部位から伸ばす:胸の日なら胸と肩の前、脚の日なら太ももの前後とお尻を選ぶ。
- 軽い張りを感じる位置で止める:痛みを感じるほど強く伸ばさない。
- 10〜30秒保ち、呼吸を止めない:ゆっくり吐きながら力を抜く。
- 2〜4回くり返し、1部位で合計60秒を目安にする:左右がある部位は両側で行う。
- 時間がない日は硬い部位だけに絞る:全身を毎回伸ばす必要はない。
部位別のストレッチメニューの例は?
| タイミング・対象 | 種目 | 回数・時間 | セット | 休憩 |
|---|---|---|---|---|
| 筋トレ前(初心者・中級者) | レッグスイング(Leg Swing)前後・左右 | 各10回 | 1〜2 | なし |
| 筋トレ前(初心者・中級者) | アームサークル(Arm Circle) | 前後各10回 | 1〜2 | なし |
| 筋トレ前(脚の日) | 自重スクワット(Bodyweight Squat) | 10回 | 1〜2 | 30秒 |
| 筋トレ後(初心者) | 太もも裏のストレッチ(Hamstring Stretch) | 20〜30秒 | 2 | なし |
| 筋トレ後(初心者) | 胸のストレッチ(Chest Stretch) | 20〜30秒 | 2 | なし |
| 筋トレ後(中級者) | 太もも前のストレッチ(Quad Stretch)、お尻のストレッチ(Glute Stretch) | 各20〜30秒 | 2〜3 | なし |
| 別の日(柔軟性を伸ばしたい人) | 硬い部位の静的ストレッチ(Static Stretch) | 10〜30秒 | 2〜4(計60秒) | なし |
筋トレ全体の時間配分は筋トレは何分やるべきかのガイドで紹介している。ストレッチを入れても、ウォームアップとクールダウンで合わせて10〜15分ほどに収めると続けやすい。
筋トレをしない日にストレッチをしてもいい?
よい。むしろ柔軟性を高めたい人には、筋トレと切り離した時間のほうが、直後の筋力低下を気にせず十分に伸ばせる。BehmとChaouachiの総説も、別の機会に行う静的ストレッチは健康に関わる可動域の改善に役立つとしている。入浴後など体が温まった時間に、硬い部位を中心に10分ほど行うと習慣にしやすい。休養日の過ごし方は筋トレは何日休むべきかのガイドも参考になる。
ストレッチでよくある間違いは?
- 筋トレ直前に1部位1分以上じっくり伸ばす:直後の筋力が落ちやすい。前は短く、長く伸ばすのは後か別の時間にする。
- 反動をつけて勢いよく伸ばす:動的ストレッチは「振り回す」ことではない。動きを制御しながら大きく動かす。
- 痛みを我慢して伸ばす:強すぎる伸ばし方は筋肉が緊張し、かえって伸びにくい。軽い張りで止める。
- 筋肉痛を防ぐために長くストレッチする:研究では効果はごく小さい。痛む日の過ごし方は筋肉痛のときの筋トレのガイドを参照。
- ストレッチだけでウォームアップを済ませる:体温を上げる運動と、種目の軽いセットを省かない。
- 呼吸を止めて伸ばす:体に力が入る。ゆっくり吐きながら力を抜く。
安全のための注意点は?
- 伸ばしたときに鋭い痛みやしびれが出たら中止する。関節のけがや持病がある人は、医師に相談してから行う。
- 肩や腰を痛めた経験がある人は、痛みの出る方向に無理に伸ばさない。
- 冷えた状態でいきなり強く伸ばさない。前は軽く体を温めてから行う。
- 体が柔らかすぎて関節が不安定な人は、伸ばす量を増やすより、筋トレで支える力をつける。
- 運動中に胸の痛み、強い息苦しさ、めまいが出たら、すぐに中止する。
よくある質問
筋トレ前に静的ストレッチをしてはいけない?
禁止ではない。1部位あたり60秒未満の短い静的ストレッチなら影響は小さく、後に動的な運動や軽いセットを入れれば明確な低下は見られないとレビューで示されている。長く伸ばすのは筋トレ後か別の時間にするとよい。
筋トレ後のストレッチで筋肉痛は防げる?
ほとんど期待できない。コクラン・レビューでは、運動後のストレッチで翌日の筋肉痛は100点満点で平均約1点しか減らなかった。筋トレ後のストレッチは柔軟性を高める目的で行うとよい。
ストレッチは毎日したほうがいい?
柔軟性を高めるには、ACSMは週2日以上を勧めている。筋トレの日だけでなく、入浴後など体が温まった時間に行うのも続けやすい。
ストレッチで筋肉は大きくなる?
鍛えた人で小さな効果が見られたとするメタ分析はあるが、筋トレの代わりにはならない。詳しくは静的ストレッチと筋肥大のメタ分析の解説を参照してほしい。
フォームローラーはストレッチの代わりになる?
可動域を一時的に広げる効果は報告されており(フォームローリングのレビューの解説)、筋トレ前の準備に使える。ただし筋トレ前の主役は、体を温める運動と種目の軽いセットである。
KINNIKU TIMESの視点
ストレッチの「前か後か」は、何のために伸ばすかで答えが変わる。研究は、筋トレ直前の長い静的ストレッチが筋力をわずかに下げ、動的ストレッチと軽いセットを組み合わせたウォームアップでは低下が見られないことを示している。一方で、筋トレ後のストレッチに筋肉痛を防ぐ力はほとんどない。前は「温める・大きく動かす・軽いセット」、後や別の時間は「硬い部位を10〜30秒ずつ合計60秒」と役割を分ければ、時間をかけすぎずに柔軟性も筋トレの質も保てる。
出典:Behm ら(Appl Physiol Nutr Metab, 2016)/Behm・Chaouachi(Eur J Appl Physiol, 2011)/Iversen ら(Sports Med, 2021)/Herbert ら, Cochrane Review(2011)/Van Hooren・Peake(Sports Med, 2018)/Garber ら, ACSM Position Stand(Med Sci Sports Exerc, 2011)
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