睡眠不足で筋力はどう変わる?17研究のレビューと女性10人の試験で解説
睡眠不足と筋力の関係を調べた17件の研究のレビューでは、1晩程度の寝不足では筋力への影響が一貫しないことが分かっている。
一方、女性10人を対象にした9夜連続の睡眠制限試験では、挙上速度やコルチゾール、疲労度に明確な変化が確認された。
睡眠不足がレジスタンストレーニングに与える影響を17件の研究から整理した系統的レビューと、女性10人を対象にした9夜連続の睡眠制限試験から、1晩程度の寝不足では最大筋力への影響は一貫しないが、複数夜続く睡眠不足では挙上スピードやコルチゾール、疲労感に明確な変化が出ることが分かっている。単発の寝不足よりも、慢性的な睡眠不足の方がトレーニングの質に影響しやすいとみられる。
「断眠」と「睡眠制限」は分けて考える必要がある
オーストラリア・ディーキン大学のノウルズ(Knowles)氏らが2018年にスポーツ医学誌「Journal of Science and Medicine in Sport」に発表した系統的レビューは、睡眠と筋力の関係を調べた17件の研究を整理している。同レビューは、一晩も眠らない「断眠(sleep deprivation)」と、睡眠時間を短くする「睡眠制限(sleep restriction)」を分けて検証しており、両者で筋力への影響の出方が異なると指摘している。
1晩の寝不足で筋力は落ちるのか
睡眠制限を扱った研究では、結果が一様ではない。クック(Cook)氏らによるラグビー選手の研究(2012年)では、6時間未満の睡眠の翌日にスクワットなどの総ワークロードが減少したが、カフェインの摂取でその低下は回復したとされる。スイッシ(Souissi)氏らの研究(2013年)では、早朝覚醒により睡眠を3時間に制限した場合、夕方の測定で握力が3.1〜8.4%、肘屈曲の最大筋力(MVC)が15〜24%低下したが、午前中の測定では差がなかったという。ライリー(Reilly)氏とピアシー(Piercy)氏の研究(1994年)では、3夜連続の睡眠制限で3夜目以降にデッドリフトやレッグプレス、ベンチプレスの1RMが低下したが、ダンベルカールには変化がなかった。一方、1晩だけの睡眠制限を扱った他の多くの研究では、握力や等速性筋力に有意な変化はみられなかったと同レビューはまとめている。
一睡もしない「断眠」ではどうか
完全に眠らない断眠の研究では、ブルーマート(Blumert)氏らの研究(2007年)で24時間断眠後も1RMや総負荷に変化はみられなかった。一方、アーナル(Arnal)氏らの研究(2016年)では34〜37時間の断眠後に膝伸展の最大筋力が低下し、タケウチ氏らの研究(1985年)では64時間の断眠後に膝伸展トルクが約19%低下、バルブリアン(Bulbulian)氏らの研究(1996年)では30時間の断眠後に膝伸展のピークトルクが低下したと報告されている。同レビューは、1晩程度の断眠では最大筋力はおおむね維持される一方、長時間の断眠と持続的な運動を組み合わせた場合の結果は一貫していないと結論づけている。
複数夜続く睡眠制限では何が変わるのか
同じノウルズ氏らが2022年に発表した追跡研究(Medicine and Science in Sports and Exercise誌、54巻12号)は、レジスタンストレーニング経験のある18〜35歳の健康な女性10人を対象に、無作為化クロスオーバー試験を実施した。就床時間を5時間に制限する「睡眠制限(SR)」を9夜連続で行う条件と、7時間以上確保する「通常睡眠(NS)」の条件を、最低6週間の間隔を空けて両方試してもらい、各条件で4回のトレーニングセッションを行った。
| 指標 | 通常睡眠と比べた変化(睡眠制限時) |
|---|---|
| 総挙上量(ボリュームロード) | 1%未満の減少(p<0.05) |
| 下半身の複合種目のバー速度 | 最大15%低下(p<0.05) |
| スクワットのセット内速度低下 | 最大7%拡大(p<0.05) |
| 唾液コルチゾール(曲線下面積) | 42%増加 |
| 総トレーニング疲労度 | 84%増加 |
| セッションRPE | 11%増加 |
総挙上量そのものはわずかしか落ちなかったが、バーの挙上速度やセット内の速度低下、疲労度の指標ではより大きな変化が確認された。同研究は、睡眠制限の影響は挙げた重量の総量よりも、動作の質を示す指標の方が敏感に表れると結論づけている。
どれくらいの睡眠を確保すればよいか
厚生労働省が2024年2月にまとめた「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、成人の適正な睡眠時間はおおむね6〜8時間とし、「6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」ことを推奨している。同ガイドは、運動不足が睡眠の休養感を下げる要因の一つになるとも指摘しており、運動と睡眠は双方向に影響し合うと考えられる。
よくある質問
前日だけ寝不足でも筋トレは控えるべきか
1晩程度の寝不足では、研究によって筋力への影響の有無が分かれており、必ずしもトレーニングを中止する必要はないとされる。ただし疲労感や集中力の低下を感じる場合は、無理に追い込まず負荷を調整したい。
複数日の寝不足が続いている場合はどうすべきか
複数夜にわたる睡眠制限では、挙上速度の低下やコルチゾールの上昇、疲労感の増加が確認されている。睡眠不足が続いている時期は、RPE/RIRを使って無理のない範囲に負荷を調整することも一つの方法である。
KINNIKU TIMESの視点
睡眠不足が筋力に与える影響は、寝不足の程度や期間によって一様ではなく、1晩だけなら大きく崩れないケースも多い。一方で、複数夜にわたる睡眠不足は挙上スピードやコルチゾール、疲労感に明確な影響を及ぼすため、継続的な寝不足は軽視しない方がよいだろう。慢性的な不眠や日中の強い眠気が続く場合は、トレーニングの工夫だけで対処せず、医師に相談することをお勧めする。
出典:Knowles OE, Drinkwater EJ, Urwin CS, Lamon S, Aisbett B.「Inadequate sleep and muscle strength: Implications for resistance training」Journal of Science and Medicine in Sport(2018)/Knowles OE, Drinkwater EJ, Roberts SSH, et al.「Sustained Sleep Restriction Reduces Resistance Exercise Quality and Quantity in Females」Medicine and Science in Sports and Exercise 54(12):2167-2177(2022)/厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(2024年2月)
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