運動中の脚のこむら返りはなぜ起こる?電解質説と神経筋説を比較
運動中に起こる脚のこむら返り(EAMC)は、電解質不足・脱水説より神経筋の疲労説を支持するデータが多いと、2009年の医学レビューが結論づけている。
水分・電解質補給だけでは予防の決め手にならない可能性が高い。
運動中に起こる脚のこむら返り(運動誘発性筋けいれん、EAMC)の主な原因について、長年信じられてきた「電解質不足・脱水説」より、「神経筋の疲労による制御の乱れ説」を支持するデータが積み重なっていると、2009年の医学レビューは結論づけている。どちらの説を重く見るかで、予防や対処の考え方も変わってくる。
運動誘発性筋けいれん(EAMC)とは何か
EAMC(Exercise-Associated Muscle Cramps)とは、運動中または運動直後に起こる、骨格筋の急激で不随意、かつ痛みを伴う収縮を指す。マラソンやトライアスロンなど長時間の持久系競技で特に知られているが、筋力トレーニングの最中に起こることもある。南アフリカ・ケープタウン大学のマーティン・シュウェルナス氏が『British Journal of Sports Medicine』誌(2009年、DOI:10.1136/bjsm.2008.050401)に発表したレビューでは、この原因を説明する2つの代表的な仮説が検証されている。
電解質不足・脱水説の根拠は
汗で失われるナトリウムなどの電解質や、体内の水分が不足することがこむら返りの原因だとする説は、スポーツ現場で古くから広く信じられている。しかし同レビューによると、この説を支持する根拠は、主に臨床現場での経験談、合計18例の症例報告、そして対象者10人という小規模な1件の症例対照研究にとどまる。さらに、その後に行われた4件の前向きコホート研究の結果は、いずれもこの電解質・脱水説を支持しなかったという。
神経筋の疲労説の根拠は
もう一つの説は、運動による筋肉の疲労が、脊髄レベルでの神経の働きを乱し、筋肉への指令が過剰になることでけいれんが起こるという「神経筋制御の変化」説である。この説は、実験的に人為的にけいれんを起こさせる研究(けいれんモデル)、実際にけいれんを起こした選手を対象にした疫学研究、さらに動物実験のデータによって支持されているとされる。シュウェルナス氏は、これらを根拠に、神経筋の疲労説を主要なメカニズムとみる研究データが蓄積しつつあると結論づけている。
| 仮説 | 主な根拠 | 評価 |
|---|---|---|
| 電解質不足・脱水説 | 症例報告18例、小規模症例対照研究1件(n=10) | その後の前向きコホート研究4件が支持せず |
| 神経筋の疲労説 | けいれんモデル研究、選手の疫学研究、動物実験 | レビューはこちらを有力と結論 |
結局、何に気をつければいいのか
このレビューはシュウェルナス氏自身による既存研究の総合評価(ナラティブレビュー)であり、電解質補給そのものの効果を直接検証した大規模な介入試験ではない。そのため「電解質を摂ってもこむら返りには全く意味がない」と言い切れるわけではないが、少なくとも電解質不足・脱水説を裏づける質の高いデータは限られているのが現状である。長時間の運動で水分・電解質補給自体は健康管理として重要だが、こむら返り対策としては、運動強度や時間に見合ったトレーニングを積んで筋肉の疲労耐性を高めることや、ふくらはぎなど該当部位のストレッチ・コンディショニングを重視するほうが、現時点のエビデンスに合っていると考えられる。なお、同論文の著者はスポーツドリンク製造企業から学会参加費等の提供を受けたことを利益相反として開示している。
よくある質問
塩分やスポーツドリンクを摂ればこむら返りは予防できますか
まだ十分には証明されていない。電解質不足説を支持する質の高い研究は限られており、神経筋の疲労が主な要因である可能性が高いと2009年のレビューは指摘している。水分・電解質補給自体は長時間運動での健康管理として重要だが、こむら返り予防の決め手とは言い切れない。
こむら返りが起きたらどうすればいいですか
一般的には、けいれんを起こした筋肉をゆっくり伸ばすストレッチが対処法として知られている。頻繁に繰り返す場合や、しびれ・脱力を伴う場合は、他の病気が関係している可能性もあるため、早めに医師に相談することが望ましい。
KINNIKU TIMESの視点
こむら返りが起きると「塩分不足だ」と考えがちだが、現時点の研究を総合すると、筋肉の疲労そのものが神経の働きを乱すことの方が主な原因とみられている。長時間のランニングや大会前は水分・電解質補給を怠らないようにしつつ、普段から運動強度・時間に見合ったトレーニングを積み、ふくらはぎなどけいれんしやすい部位のストレッチを習慣にすることが、現実的な対策と言えそうだ。けいれんが頻発する、あるいは他の症状を伴う場合は、自己判断で済ませず医師に相談してほしい。
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