筋トレの「停滞期」はなぜ起きる?海外レビュー論文が考察する筋肥大プラトーの仕組み
ウェイトトレーニングを続けていると、ある時点で筋肉の成長が止まる「プラトー(停滞期)」を経験する人は多い。米ミシシッピ大学のジェレミー・ローネキー氏らが2023年にSports Medicine誌で発表した総説は、その背景にありうる複数の生理学的メカニズムを整理している。
ウェイトトレーニングを一定期間続けると、記録や見た目の変化が足踏みする「プラトー(停滞期)」を経験する人は多い。筋力や筋肉量の伸びがなぜ止まるのかについて、日本ではしばしば「遺伝的な限界」という大まかな説明で片づけられがちだが、米ミシシッピ大学のジェレミー・ローネキー氏らの研究チームが2023年にスポーツ医学の専門誌「Sports Medicine」に発表した総説(レビュー論文)は、この停滞の背景にありうる複数の生理学的なメカニズムを整理している。あくまで仮説の整理であり、新しい実験データを示したものではない点に注意したい。
「本当の停滞」と「一時的な足踏み」の違い
論文はまず、長期間のトレーニング後に訪れる「本当の意味での成長の天井」と、短期的に記録が伸び悩む「一時的な足踏み」を区別するのは難しいと指摘する。これまで筋肥大の停滞は「遺伝的な潜在能力に到達したから」と説明されることが多かったが、そこで体の中で具体的に何が起きているのかについては、十分に議論されてこなかったという。今回の総説は、この「なぜ」の部分に焦点を当てた内容である。
同化(アナボリック)シグナルが負荷に鈍くなる
一つ目の仮説は、慢性的にトレーニングを続けることで、筋肉を合成する方向に働く「同化シグナル伝達経路」が、同じ負荷に対して反応しにくくなっていく可能性である。筋肉の合成反応を示すとされるマーカー(指標)は、成長の予測にある程度役立つこともあるが、論文は「必ずしも明確な関連を示すとは限らない」とも述べており、マーカーの数値だけで成長の有無を断定できるものではないとしている。
分解(カタボリック)の働きとエネルギーバランス
二つ目は、筋肉を分解する方向に働く「カタボリック(異化)」のプロセスが、それ以上の成長を抑える方向に関わっている可能性である。この働きは摂取カロリーと消費カロリーの収支、すなわちエネルギーバランスの影響を受けるという。慢性的なカロリー不足や、トレーニング強度に見合わない食事量が続くと、合成よりも分解が優位になりやすい状況が生まれうる、という考え方である。
筋細胞自身の「サイズ感知」説と加齢の影響
さらに論文は、筋細胞そのものが自分の大きさを感知し、それ以上大きくなりすぎないよう調整する仕組みや、成長速度にブレーキをかける分子レベルの機構が存在するかもしれないという説にも触れている。ただし、この部分は論文自身が「推測の域を出ない」と明記しており、確立した事実ではない。また、年齢を重ねる中では、筋肥大の潜在能力に到達したかどうかにかかわらず、ある時点で同化反応そのものが加齢によって弱まっていくとも述べられている。
よくある質問
Q. 停滞期が来たら、もう筋肉は大きくならないということか?
A. この論文はそうは述べていない。あくまで「なぜ停滞が起こりうるか」の生理学的な仮説を整理したものであり、個人の停滞が遺伝的な限界なのか、一時的な足踏みなのかを見分ける方法を示したものではない。
Q. 停滞を打破する具体的な方法は書かれているか?
A. この総説自体はメカニズムの考察が中心で、具体的なトレーニング方法を提示したものではない。伸び悩みへの一般的な対策としては、負荷や量を段階的に増やす「プログレッシブオーバーロード」や、期分け(ピリオダイゼーション)の考え方が広く知られている。
Q. エネルギーバランスを整えれば停滞は防げるのか?
A. 論文はエネルギーバランスが分解プロセスに影響する一因として触れているが、それだけで停滞を完全に防げると主張しているわけではない。複数の要因が絡み合っている可能性がある、という整理である。
KINNIKU TIMESの視点
「筋トレの効果が頭打ちになった」という感覚は、多くのトレーニーが一度は経験するものだろう。今回の総説は、その背景を「気合が足りない」といった精神論ではなく、同化シグナルの鈍化や分解プロセス、細胞レベルの調整機構、加齢など、複数の生理学的な切り口から捉え直そうとした点に意味がある。一方で、著者ら自身が複数の箇所で「推測」「仮説」という言葉を使っているとおり、この総説は新しい実験データを提示したものではなく、既存の知見を整理した理論的な考察である。停滞を感じたときにまず見直すべきは、今回の仮説そのものよりも、負荷設定や回復、栄養摂取といった基本的な要素であることに変わりはない。
出典
Kataoka R, Hammert WB, Yamada Y, Song JS, Seffrin A, Kang A, Spitz RW, Wong V, Loenneke JP. "The plateau in muscle growth with resistance training: an exploration of possible mechanisms." Sports Medicine. 2024;54(1). DOI: 10.1007/s40279-023-01932-y(2023年オンライン先行公開)
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