筋肉痛(DOMS)はなぜ起こるのか 最新レビューが示す神経化学的な仕組み
筋トレ後に遅れて現れる筋肉痛「DOMS」は、筋線維の損傷や炎症だけでは説明できず、神経成長因子(NGF)とGDNFという二つの神経化学的経路が痛みを増幅させている可能性が高いことが、2024年1月発表の総説で示された。
名古屋市立大学と新潟医療福祉大学の研究者による論文は、同じ運動を繰り返すと筋肉痛が起きにくくなる「反復運動効果」の仕組みにも言及している。
筋トレの1〜2日後に遅れて現れる筋肉痛「遅発性筋肉痛(DOMS)」について、名古屋市立大学の水村和枝氏と新潟医療福祉大学の田口徹氏による総説が、2024年1月24日、学術誌The Journal of Physiological Sciencesに掲載された。筋線維の微細な損傷と炎症が原因とする従来説に疑問を投げかけ、神経成長因子(NGF)とGDNF(グリア細胞株由来神経栄養因子)という二つの神経化学的経路が痛みを増幅させている可能性を示した。
「筋肉痛=炎症」説にはなぜ疑問が持たれているのか
筋肉痛は長らく、筋線維の微細な損傷とそれに続く炎症反応が原因と説明されてきた。しかし論文は、損傷の指標とされる値の時間変化がDOMSの程度の変化と一致しないとする報告や、炎症細胞の浸潤が人で有意な痛みを引き起こさなかったとする報告を挙げ、この説だけでは説明が難しいと指摘する。著者らが行ったラットを用いた実験でも、通常の伸張性収縮運動の条件では筋線維の損傷や炎症細胞の浸潤は確認されず、損傷が見られたのは運動条件が極端な場合に限られたという。
痛みを強めるNGFとGDNFという二つの経路
論文は、DOMSの発生に二つの神経化学的経路が関わるとしている。一つは「B2ブラジキニン受容体-NGF経路」で、伸張性収縮の直後に受容体が活性化し、12時間後ごろから神経成長因子(NGF)の発現が高まる。NGFは末梢の痛みを感じる神経を感作(過敏化)させる働きを持ち、ラット実験では抗NGF抗体を投与すると、下がっていた痛みの閾値が数時間で回復したことが報告されている。もう一つは「COX-2-GDNF経路」で、COX-2は運動直後と12時間後の2回発現が上がり、GDNFは12時間から1日後にかけて上昇する。COX-2を阻害する薬剤は発症そのものの予防には効果を示したが、すでに発症した痛みを取り除くことはできなかったという。
二つの経路が組み合わさると痛みが強まる
論文によれば、NGFとGDNFはそれぞれ単独では痛覚過敏を起こさない低い濃度であっても、二つを組み合わせると強い過敏反応を起こすことが確認されている。著者らはこれを、痛みを伝える一次求心性神経のレベルで二つの経路が相互作用している結果と解釈している。関与するイオンチャネルとしてTRPV1やASIC3が挙げられ、マウスを用いた別の研究ではTRPV4の関与も示されているという。なお、DOMSは筋肉を伸ばしながら力を発揮する「エキセントリック(伸張性)収縮」を伴う動作で強く起こりやすいことが知られている。この収縮様式の特徴はエキセントリック(ネガティブ)トレーニングとはで解説している。
同じ運動を繰り返すと筋肉痛が起きにくくなる理由
論文はまた、同じ伸張性運動を1週間空けて2回行うと、2回目ではDOMSやNGF発現の上昇が起こりにくくなる「反復運動効果」にも触れている。この適応は、B2受容体が活性化するより前の段階、すなわち運動による一次的な刺激そのものが変化している可能性を示しているという。人を対象にした別の実験では、体幹の伸張性運動によって誘発した腰背部の圧痛の閾値が、24時間後に最も低下し、48時間後には回復に向かったことも報告されている。筋肉痛そのものを和らげる方法については、タートチェリージュースは筋肉痛・回復に効くかでも検証している。
よくある質問
筋肉痛がある間は筋トレを休むべきか
この論文自体は休養の目安を示していない。一般的には、強い痛みや腫れ、動かしづらさが続く場合は無理に同じ部位を追い込まず、負荷や頻度を調整するのが望ましい。痛みが長引く、あるいは強い場合は医師に相談することが勧められる。
筋肉痛がないと筋トレの効果が出ていないのか
この論文は筋肉痛の有無と筋肥大などの効果を直接結びつける検証を行っていないため、科学的に断定できる段階にはない。筋肉痛はトレーニング効果の必須条件ではないと考えておくのが無難である。
DOMSはどれくらいで治まるのか
論文が引用する人の実験では、伸張性運動で誘発した腰背部の圧痛閾値は24時間後に最も低下し、48時間後には回復に向かったと報告されている。ただし運動の種類や強度、個人差によって経過は大きく異なるため、あくまで一例として参考にしてほしい。
KINNIKU TIMESの視点
DOMSは単純な「炎症の痛み」ではなく、NGFやGDNFといった神経成長因子が神経を過敏にすることで強まる現象だと分かる。痛みがなくても焦る必要はなく、「反復運動効果」を踏まえれば、新しい種目や急な負荷増加は段階的に行うのが合理的だろう。強い痛みや腫れが長引く、関節の可動域に明らかな異常を感じる場合は、自己判断で続けず医師に相談してほしい。
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