筋肉は傷つくほど育つ?10人の10週試験、筋肥大と相関したのは3週目以降の合成
筋トレ開始1週目の筋たんぱく質の合成量は筋肥大と相関せず、相関が見られたのは筋損傷が小さくなった3週目と10週目だった。若い男性10人を10週間追った2016年の研究は、「筋肉は傷つけるほど育つ」とは言えないことを示している。
筋トレを始めた直後に高まる筋たんぱく質の合成は、主に傷ついた筋肉の修復に使われ、筋肥大とは結びつかない可能性がある。フェリペ・ダマス(Felipe Damas)氏らの研究チームが、若い男性10人に10週間の筋トレを行い、1週目・3週目・10週目に筋肉を採取して調べた。筋肥大と相関したのは、筋損傷が落ち着いた3週目以降の合成量だった。研究は英生理学会誌「The Journal of Physiology」に2016年に掲載された。「筋肉は傷つけるほど育つ」という考え方を見直す材料となる研究である。
どんな研究?対象者と方法
論文にはカナダ・マクマスター大学のスチュアート・フィリップス(Stuart Phillips)教授らも加わった。対象は若い男性10人(平均27歳)である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 若い男性10人(27±1歳) |
| 期間 | 10週間の筋トレ |
| 測定の時期 | 1週目(T1)・3週目(T2)・10週目(T3) |
| 採取のタイミング | 筋トレ前、24時間後、48時間後に筋肉を採取 |
| 測ったもの | 筋原線維たんぱく質の合成量(重水で追跡)、筋損傷(Z帯の乱れ)、筋線維の太さ |
合成量は、重水(D₂O)を飲んでもらい、一定期間に作られたたんぱく質を積算して測る方法を使った。1回の運動直後だけでなく、回復中の48時間を通した合成の総量を見られる点が特徴である。
結果は?筋肥大と相関したのは3週目以降
主な結果は次の3点である。
- 筋損傷(Z帯の乱れ)は1週目が最も大きく、3週目で小さくなり、10週目にはほぼ見られなくなった。
- 筋トレ後の合成量の増え方は1週目が最大で、3週目と10週目は同程度だった。
- 1週目の合成量も筋損傷も、最終的な筋肥大とは関係しなかった。一方、3週目と10週目の合成量は筋肥大と相関した。
筋線維の太さがはっきり増えたのは10週目の時点だった(P=0.017)。著者らは「筋肥大は、筋損傷が徐々に小さくなった後に、合成の上昇が断続的に積み重なった結果である」と結論づけている。
なぜ最初の合成は筋肥大につながらない?
筋トレを始めたばかりの時期は、慣れない刺激で筋肉が大きく傷つく。この時期に合成が高まっても、その多くは壊れた部分の修復に回り、筋肉を太くする方向には十分に使われないと考えられる。同誌に掲載された解説記事も、この研究を「筋損傷と合成のバランス」を示したものとして取り上げた。
筋肉痛が強い時期ほど筋肉が育っているとは限らない、という見方にもつながる。ただし、この研究が測ったのは顕微鏡で見た筋損傷であり、筋肉痛そのものではない点には注意が必要である(筋肉痛についてはBCAAと筋肉痛のメタ分析の記事を参照)。
この研究の限界は?
対象者は10人と少なく、全員が若い男性である。女性や高齢者、長年鍛えている人に同じ結果が当てはまるかは分からない。また、合成量と筋肥大の関係は相関を示したもので、筋損傷が筋肥大を妨げると直接証明したわけではない。
よくある質問
筋肉を傷つけるほど筋肉は大きくなる?
この研究では、筋損傷が最も大きかった1週目の合成量は筋肥大と関係しなかった。傷つけるほど育つとは言えない。
筋肥大が始まるのはいつ?
この研究で筋線維の太さがはっきり増えたのは10週目の測定時点で、合成量と筋肥大の相関は3週目以降に見られた。
KINNIKU TIMESの視点
筋トレを始めて最初の数週間は、体が刺激に慣れて筋損傷が減っていく「準備期間」と捉えるのが現実的だ。強い筋肉痛を追い求めて毎回種目や刺激を大きく変えるより、同じ種目を続けて重量や回数を少しずつ伸ばすほうが、損傷が落ち着いた後の合成を筋肥大に生かしやすいと考えられる。負荷の伸ばし方は重量と回数の増やし方を比べた試験、頻度は頻度のメタ分析も参考にしてほしい。
出典:Damas F, et al.「Resistance training-induced changes in integrated myofibrillar protein synthesis are related to hypertrophy only after attenuation of muscle damage」The Journal of Physiology 594(18):5209-5222(2016年9月15日)/マーストリヒト大学 研究データベース(同論文の要旨)/Keefe, et al.「An intricate balance of muscle damage and protein synthesis」The Journal of Physiology(2016年)
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