「スロートレーニング」とは何か 東大発・石井直方氏考案の筋トレ法を検証
「スロートレーニング」は、関節を伸ばし切らずゆっくり動き続けることで、軽い負荷でも高重量トレーニングに近い刺激を狙う、東京大学発祥の筋力トレーニング法である。高齢者39人を対象にした16週間のランダム化比較試験では、通常速度のトレーニングと同程度に筋力が向上し、両者の間に有意差はなかった。
「スロートレーニング」は、関節を伸ばし切らず筋肉を休ませないままゆっくり動くことで、軽い負荷でも高重量トレーニングに近い刺激を狙う筋力トレーニング法である。東京大学大学院(当時)の石井直方教授らが考案し、2000年の介護保険制度導入を機に高齢者向けの安全なトレーニング法として広まった。
スロートレーニングとは何か
スロートレーニングは、英語で「low-intensity resistance exercise with slow movement and tonic force generation(LST)」と呼ばれる。筋肉に力を入れ続けたまま、ゆっくり穏やかに動くのが特徴である。スクワットであれば膝を完全に伸ばし切らない、腹筋運動であれば背中を完全に床につけないなど、動作の最後まで脱力しないことがポイントになる。神奈川県の公式サイトが紹介する実践例では、1回8秒程度のペースでゆっくり動き、1分間続けるセットを1日2〜3セット、週2〜3回行うという目安が示されている。
なぜ生まれたのか 加圧トレーニングとの関係
東京大学の広報誌「淡青」によると、石井直方教授は、専用ベルトで血流を制限する加圧トレーニング(KAATSUトレーニング)と同様の効果を、血管を圧迫せずに得る方法を模索する中でスロートレーニングにたどり着いたという。2000年に介護保険制度が始まったことを機に、高齢者や虚弱な人でも安全に行える効果的なトレーニング法としてニーズが高まったと同誌は説明している。スポーツ選手のケガからの回復にも応用されているとしている。
効果はどこまで確認されているか 高齢者対象のランダム化比較試験
渡部ら(Watanabe, Tanimoto, Oba, Sanada, Miyachi, Ishii)がGeriatrics and Gerontology International誌に発表した研究(DOI:10.1111/ggi.12427)は、60〜77歳の活動的な高齢者39人を、自重を使ったスロー速度群(ST群、下ろす3秒・上げる3秒・静止1秒で休まず継続)と通常速度群(NOR群、上下とも1秒・レップ間に1秒休止)にランダムに分け、16週間(週3回)のトレーニングを比較したランダム化比較試験である。結果は次の表の通りで、両群とも筋力は有意に向上したが、群の間に統計的な有意差は確認されなかった。なお動作の最後に力を抜かずに止める点は、アイソメトリック(等尺性)トレーニングの要素も取り入れた動きといえる。
| 指標 | ST群(スロー) | NOR群(通常速度) | 群内の時間効果 |
|---|---|---|---|
| 膝伸展・等尺性筋力 | 123.5→137.9 N・m | 121.9→135.1 N・m | 両群ともP<0.001 |
| 肩水平屈曲・等尺性筋力 | 35.3→42.8 N・m | 35.2→44.9 N・m | 両群ともP<0.001 |
| 最大脚伸展パワー | 1056.9→1071.8 W/kg | 962.7→1015.4 W/kg | 両群ともP=0.032 |
| 筋厚(筋肉の厚み) | 有意な変化なし | 有意な変化なし | - |
論文は、スロー・通常どちらの速度も高齢者の筋力・身体機能の改善に有効で、両者に優劣を示す有意差はなかったと結論づけている。「スロートレーニングの方が優れている」とまでは言い切れず、「軽い負荷・ゆっくりした動作でも、通常の自重トレーニングと同程度の効果が期待できる」という位置づけが正確である。なお筋肉の厚みは、この16週間の試験ではどちらの群でも有意な変化は見られなかった。
読者が取り入れるなら
特別な器具がなくても自宅で取り組める点が実用的なメリットである。ただし研究対象はあくまで健康な高齢者であり、持病がある人や体調に不安がある人は事前に医師に相談することが望ましい。重量を扱う筋力トレーニングの代わりになると断定された研究ではないため、高い負荷に慣れたトレーニーは通常のウエイトトレーニングと組み合わせるのが現実的である。
よくある質問
スロートレーニングは普通の筋トレより効果が高いのか。
今回紹介したランダム化比較試験では、スロー速度群と通常速度群の間に統計的な有意差はなく、同程度に筋力が向上した。優れているとまでは言い切れない。
加圧トレーニング(KAATSU)とは何が違うのか。
加圧トレーニングは専用のベルトで血流を意図的に制限するのに対し、スロートレーニングは血管を圧迫せず、動作を脱力しないことと速度の緩急だけで同様の刺激を狙う点が異なる。血流制限トレーニングそのものの効果については、KINNIKU TIMESの関連記事も参照してほしい。
どのくらいの頻度で行えばよいのか。
紹介した研究では週3回・16週間のプログラムで効果が確認された。神奈川県の紹介する目安では1日2〜3セット・週2〜3回とされている。
KINNIKU TIMESの視点
自宅トレーニーや筋トレ初心者にとって、専用器具なしに取り組めるスロートレーニングは試しやすい選択肢である。重要なのは「ゆっくり動けば何でも効く」わけではなく、関節を伸ばし切らず筋肉を休ませない姿勢を保つという一点に尽きる。フォームを崩して回数をこなすより、1レップずつ丁寧に行うことを意識したい。
出典:東京大学広報誌「淡青」12号/Watanabe et al. “Effect of resistance training using bodyweight in the elderly” Geriatrics and Gerontology International(DOI:10.1111/ggi.12427)/神奈川県公式サイト「日本発!『スロートレーニング』で筋肉を増やす」
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