【研究と種目で解説】多裂筋とは?ピラティスでの意識の仕方と腰痛との関係
多裂筋(たれつきん)は背骨のすぐそばを走る小さな筋肉で、ピラティスでは「背骨を一つずつ支える深い筋肉」として、骨盤と背骨をニュートラルに保つ種目や、背骨を少しずつ動かす種目で意識されます。腰痛のある人では多裂筋が細くなる例が報告されていますが、ピラティスで多裂筋が太くなるかははっきりしておらず、研究の結果もまちまちです。腰に痛みがある人は、始める前に医師に相談してください。
多裂筋を意識しやすいピラティスの流れ
多裂筋とは?場所とはたらき
多裂筋は、背骨の後ろ側で、背骨と背骨のあいだをつなぐように走る筋肉です。首から腰まであり、腰のあたりで特に厚くなります。体の表面から触れにくい深い場所にあるため、「インナーマッスル」の一つとして紹介されることが多い筋肉です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 場所 | 背骨の後ろ側。背骨のすぐ横を、首から腰まで走る |
| 形の特徴 | 小さな筋肉の束が、いくつかの背骨をまたいで重なっている |
| 主なはたらき | 背骨を後ろに反らす、背骨の一つ一つを安定させる |
| よく一緒に語られる筋肉 | 腹横筋(おなかの深い筋肉)、横隔膜、骨盤底筋 |
| ピラティスでの呼び方 | 「背骨のそばの深い筋肉」「体幹の奥」などと言われることが多い |
ピラティスは、体幹の安定・筋力・柔軟性・筋肉のコントロール・姿勢・呼吸を意識する運動と整理されています(Wellsら, 2012)。多裂筋は、その「体幹の安定」や「背骨のコントロール」を説明するときによく名前が出てくる筋肉です。
腰痛と多裂筋について研究でわかっていること
多裂筋が注目されるようになったのは、腰痛との関係を調べた研究がきっかけの一つです。ただし、わかっていることと、まだわからないことがあります。
| 研究 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| Hidesら, 1996 | 初めての急な腰痛の人39人を調べ、痛みが治まっても、薬などの治療だけのグループでは多裂筋の大きさが戻りにくかった。多裂筋をねらった運動を加えたグループでは戻りが早かったという結果 | 人数が少なく、ピラティスの研究ではない |
| Pintoら, 2021 | 体幹の深い筋肉をねらう運動(モーターコントロール運動)で多裂筋の形が変わるかを調べた研究をまとめた。根拠の質は「とても低い〜低い」とされた | はっきりした結論はまだ出ていない |
| Saragiottoら, 2016 | 慢性の腰痛に対するモーターコントロール運動は、何もしない場合よりは痛みが軽くなったが、ほかの運動より優れるとは言えないという結果 | 「多裂筋だけを鍛えればよい」という意味ではない |
| Yamatoら, 2015 | ピラティスは何もしない場合より腰痛と生活の支障が軽くなったという結果。ほかの運動より優れるとは言えないとされた | 根拠の質は低い〜中くらい |
まとめると、「腰痛のある人の多裂筋に変化が見られることがある」「体幹の運動は腰痛の人にとって何もしないよりはよい可能性がある」までは言えても、「ピラティスで多裂筋が太くなって腰痛がよくなる」とまでは言えません。運動の種類よりも、続けられること・安全に行えることを大事にしたほうがよい、というのが今の研究の流れです。
ピラティスで多裂筋は鍛えられる?
ピラティスを続けた人の多裂筋を超音波で調べた研究もあります。週2回のピラティスを1年続けた17人を調べた研究では、多裂筋の断面の大きさに目立った変化は見られず、ピラティスとほかの運動を組み合わせていた人のほうが大きかったという結果でした(Gala-Alarcónら, 2018)。人数が少なく、対照群のない研究なので、これだけで結論は出せません。
このため、多裂筋を「大きくする」ことよりも、「背骨を安定させたまま手足を動かす」「背骨を少しずつ動かす」といった体の使い方を練習する場と考えると、ピラティスの特徴に合っています。筋肉を大きくしたい場合は、厚生労働省がすすめる週2〜3日の筋力トレーニングと組み合わせる考え方もあります(健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023)。
多裂筋を意識しやすいピラティスの種目
次の種目は、背骨のそばの深い筋肉を意識しやすいとして、レッスンでよく使われます。どの種目も、腰を反らしすぎない・痛みが出ない範囲で行うことが前提です。
| 種目 | やり方の要点 | 意識すること |
|---|---|---|
| 四つばいで手脚を伸ばす(バードドッグ) | 四つばいから、片手と反対の脚をゆっくり伸ばす | 骨盤が傾かない、腰が反らない |
| ペルビックカール(ブリッジ) | あお向けでひざを立て、骨盤から背骨を一つずつ持ち上げ、一つずつ下ろす | 背骨を「一つずつ」動かす感覚 |
| スワンの準備 | うつぶせで、胸を少しだけ床から浮かせる | 腰ではなく胸のあたりから反る |
| スイミングの準備 | うつぶせで、片腕または片脚だけを少し浮かせる | 体がねじれない、腰が詰まらない |
| リフォーマーのフットワーク | マシンの上であお向けになり、脚でキャリッジを押す | 脚を動かしても骨盤と背骨を保つ |
「多裂筋だけを動かす」ことは難しく、実際にはおなかやお尻の筋肉と一緒に働きます。形が正しいかは自分ではわかりにくいため、最初はインストラクターに見てもらうと安心です。マシンでの練習も考えている人は、マシンピラティスのおすすめで比べています。
- 腰や脚に痛み・しびれがある人は、始める前に医師に相談してください。
- 途中で痛みが出たら中止し、無理に続けないでください。
- 妊娠中・産後の人は、うつぶせやおなかに力を入れる種目について医師に相談してください。
よくある質問
多裂筋が弱いかどうかは自分でわかりますか?
多裂筋の大きさや働き方は、超音波などの検査で調べるもので、自分で確かめるのは難しいです。「腰が反りやすい」「片脚立ちでふらつく」などは多くの原因で起こるため、多裂筋だけのせいとは言えません。気になる症状があれば医師に相談してください。
多裂筋と腹横筋はどう違いますか?
多裂筋は背中側、腹横筋はおなか側の深い筋肉です。どちらも体幹を安定させる筋肉として一緒に語られることが多く、ピラティスの呼吸やおなかの引き込みの練習で意識されます。
腰痛があってもピラティスで多裂筋を鍛えてよいですか?
研究では、腰痛に対するピラティスは何もしないよりはよい可能性が示されていますが、痛みの原因によっては避けたほうがよい動きもあります。まず医師に相談し、許可が出たらインストラクターに伝えてから始めてください。
どのくらいの頻度で行えばいいですか?
多裂筋に限った決まった頻度はありません。体の使い方を覚えるには、週1〜2回のレッスンに自宅での短い練習を足す人が多いようです。ピラティスの頻度についてはピラティスは週何回で効果が出る?にまとめています。
出典
- Hides JA, et al. Multifidus muscle recovery is not automatic after resolution of acute, first-episode low back pain. Spine. 1996
- Pinto SM, et al. Does Motor Control Exercise Restore Normal Morphology of Lumbar Multifidus Muscle in People with Low Back Pain? J Pain Res. 2021
- Saragiotto BT, et al. Motor control exercise for chronic non-specific low-back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2016
- Yamato TP, et al. Pilates for low back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2015
- Gala-Alarcón P, et al. Ultrasound Evaluation of the Abdominal Wall and Lumbar Multifidus Muscles in Participants Who Practice Pilates. J Manipulative Physiol Ther. 2018
- Wells C, et al. Defining Pilates exercise: a systematic review. Complement Ther Med. 2012
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
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