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第一試技の重量の決め方 当日の最高の約9割、研究が示す上げ幅

公開 ・ KINNIKU TIMES 編集部 ・ 読了目安 13分
パワーリフティング大会で、選手が運営席に次の試技の重量を伝えている様子
SUMMARY|この記事の要約

パワーリフティングの第1〜第3試技の重量をどう決めるかを、IPF世界クラシック選手権の選手109人の分析、豪州の1万件超の大会データ、IPF大会9万3333人の上げ幅と成功率の研究から整理した。申告の時間や変更回数などのルールと、計算例も示す。

第一試技は「調子が悪い日でも確実に挙がる重量」にするのが基本で、研究では第3試技(その日の最高)の約9割が典型だった。世界選手権の選手は第2試技で約5%、第3試技で約3%上げており、上げ幅が大きすぎると成功率は下がる。

2026年10月21日 公開|KINNIKU TIMES 編集部

パワーリフティングでは、各種目3回の試技のうち成功した最高重量が記録になる。どの重量から始め、どれだけ上げるかという「試技の重量選び」は、筋力と同じくらい結果を左右する。重すぎる第1試技を落とせば後がなくなり、軽すぎれば第3試技で大きく上げる必要が出る。本記事は、国際パワーリフティング連盟(IPF)の世界選手権の選手を分析した研究、オーストラリアの大会データ1万件超の研究、IPF大会9万3333人の上げ幅と成功率を調べた2026年の研究を読み、IPFと日本パワーリフティング協会(JPA)の申告ルールと合わせて整理した。

IPFの技術ルールブック(公式)を見る

第一試技の重量はベストの何%が目安か

最もよく引用されるのが、米国のTravisらが2021年に学術誌Perceptual and Motor Skillsに発表した研究だ。2012〜2019年のIPF世界クラシック選手権で全試技を成功させた男子66人、女子43人の重量を調べたところ、第1試技は第3試技の約91%、第1試技から第2試技へは約5%、第2試技から第3試技へは約3%上げるのが典型的なパターンだった。研究チームは、これが世界選手権に出る一流のクラシック(ノーギア)選手の典型的な重量選びだと結論づけている。

オーストラリアのHowellsらの研究(Journal of Sports Medicine and Physical Fitness、2022年)は、2008〜2019年のパワーリフティング・オーストラリア公認のノーギア大会の出場記録1万672件を分析した。スクワットの第1試技は、平均でその日に成功した最高重量の92%で、93.5%の選手が第2・第3試技でその重量を更新していた。優勝した選手の第1試技は、優勝しなかった選手より平均7.0kg重く、研究チームは「重めの第1試技を確実に成功させること」が優勝の確率を高めると述べている。

研究 対象 第1試技の目安 上げ幅の目安
Travisら(2021年) IPF世界クラシック選手権2012〜2019年で全試技成功の109人 第3試技の約91% 第1→第2で約5%、第2→第3で約3%
Howellsら(2022年) 豪州のノーギア大会2008〜2019年の1万672件(スクワット) 当日の最高重量の平均92% 93.5%が第1試技の重量を更新
Darraghら(2026年) IPF大会6979大会・9万3333人 (第1試技の割合は調べていない) 平均の相対上げ幅は第1→第2で男子6.6%・女子7.5%、第2→第3で男子4.2%・女子4.8%

「ベスト」は練習の1RMではない点に注意

これらの研究の割合は、いずれも大会当日の結果(第3試技や当日の最高重量)を基準にしている。練習で一度だけ挙げた最高重量を基準に91%を計算すると、当日の調子や、主審の合図で胸に止める・深くしゃがむといった判定の条件によっては重すぎることがある。初めての大会なら、判定の基準を満たした動作で挙げられる重量を「ベスト」とみなして計算するのが安全だ。判定の基準はパワーリフティングの判定で解説している。

試技の重量申告のルール 1分以内と変更回数

重量の選び方を考える前に、申告のルールを押さえておく必要がある。IPFの技術ルールブック2026とJPAの国内ルールに共通する主な決まりは次のとおりだ。

項目 ルール
第1試技 検量のときに3種目すべての重量を申告する。各種目1回だけ変更できる(最初のグループは開始3分前まで)
第2・第3試技 前の試技のライトが点いてから1分以内に申請する
申請しなかった場合 成功なら自動的に2.5kg増、失敗なら同じ重量になる
変更の可否 第2試技は変更不可。スクワットとベンチプレスは第3試技も変更不可。デッドリフト(とシングルベンチ大会)の第3試技だけ2回まで変更できる
重量の単位 2.5kgの倍数。試技の間は最低2.5kg上げる(記録挑戦は現記録より0.5kg以上重い重量も可)
3回失敗 その種目の記録がなくなり、トータルの順位から外れる

このルールから分かるのは、第2・第3試技の重量を考える時間はわずか1分しかないということだ。事前に「成功したら次は何kg、失敗したら何kg」という計画を立てておく選手が多いのはこのためである。同じトータルなら体重の軽い選手が上位になるという規定もあり、順位を争う場面ではライバルの重量を見て第3試技を決めることもある。大会当日の流れは初めてのパワーリフティング大会ガイドにまとめた。

大会の記録席で、試技の結果を記した用紙を集計する役員の手元
画像:Wikimedia Commons(U.S. Army Reserve photo by Sgt. 1st Class Abel Aungst, パブリックドメイン)より

上げ幅はどれくらいがよいのか 9万人の分析

アイルランドのDarraghらは、公開データベースOpenPowerliftingから1990年9月〜2024年8月のIPF公認大会の記録を取り出し、男子6万2679人、女子3万654人、計9万3333人の136万回を超える試技を分析した(Journal of Strength and Conditioning Research、2026年)。第1試技を成功させた選手に限り、試技の間の上げ幅(kg)と次の試技の成功率の関係を、年齢や体重、第1試技の重量を考慮したモデルで調べている。

種目(男子) 第2試技の成功率 第3試技の成功率 種目(女子) 第2試技の成功率 第3試技の成功率
スクワット 87% 68% スクワット 84% 65%
ベンチプレス 82% 49% ベンチプレス 81% 45%
デッドリフト 88% 59% デッドリフト 91% 66%

男女とも第3試技の成功率は第2試技より明らかに低く、ベンチプレスは最も成功しにくい種目だった。上げ幅との関係では、男子のスクワットとデッドリフトは5〜20kgの範囲で成功率がむしろ高まり、20kgを超えると下がった。男子のベンチプレスは10kg未満でわずかに上がり、10kgを超えると急に下がり、その傾向は第3試技で強かった。女子のスクワットは8kg以下の小さな上げ幅でのみ成功率が上がり、10kgを超えると大きく下がった。女子のベンチプレスの第3試技は4kgを超えると成功率が急落し、女子のデッドリフトは9〜11kgあたりが最もよい上げ幅とされた。

「小さく上げれば成功する」わけではない

注目したいのは、上げ幅が小さすぎても成功率が最も高くなるわけではない点だ。研究チームは、男子のスクワットでは1〜20kgの範囲なら大きめに上げることがむしろ有利になり得ると述べている。第1・第2試技が余裕を持って成功していれば、その分だけ大きく上げても成功しやすいという解釈ができる。ただしこの研究は観察データであり、上げ幅を大きくすれば成功するという因果関係を示したものではない。研究チームも、結果をそのまま当てはめるのではなく、選手個人の状態に合わせて使うよう勧めている。

第1〜第3試技の重量を計算してみる

研究の典型値をもとに、第3試技の目標を決めて逆算する方法を例で示す。重量は2.5kg単位に丸める必要があるため、計算結果に近い重量を選ぶ。これは研究の平均的なパターンを当てはめた計算例であり、全員に最適な重量ではない。

第3試技の目標 第1試技(約91%) 第2試技(約5%増) 第3試技(約3%増)
100kg(例:ベンチプレス) 90kg 95kg 97.5〜100kg
150kg(例:スクワット) 137.5kg 145kg 150kg
200kg(例:デッドリフト) 182.5kg 192.5kg 197.5〜200kg

初心者の場合は、もう一段慎重でよい。初めての大会では、検量後の待ち時間やアップ場の雰囲気、合図に合わせる動作など、練習にない要素が多い。第1試技は「調子が悪い日でも3回挙げられる重量」、第2試技は「練習の自己ベスト前後」、第3試技は「第2試技の手応えを見て自己ベスト更新を狙う」という組み立てが一般的な考え方だ。重量とプレートの組み合わせは重量計算機で確かめられる。

失敗したときの次の一手

ルール上、失敗した重量に同じラウンドで再挑戦はできず、次の試技は失敗した重量以上になる。第1試技を落とした場合、多くの選手は同じ重量で第2試技に臨む。原因が判定上の反則(深さ不足や合図違反)なのか、挙げきれなかったのかで判断が変わる。前者なら重量はそのままで動作を修正し、後者なら第3試技の計画を下方修正するのが妥当だ。1分以内に決める必要があるため、セコンドがいれば失敗理由のカードの色を確認してもらうとよい。

大会でデッドリフトの試技に向けてバーを握り、集中した表情を見せる男子選手
画像:Wikimedia Commons(U.S. Air Force photo by Senior Airman Haiden Morris, パブリックドメイン)より

種目ごとの考え方 ベンチは小さく、デッドは最後の調整

Travisらの研究では、男子は女子に比べ、ベンチプレスとデッドリフトで第3試技に対する第1試技の割合が高く(重めに入り)、女子はベンチプレスで第1→第2、第2→第3の上げ幅が男子より大きかった。種目の特性を踏まえると、次のような考え方ができる。

  • スクワット:最初の種目で、その日の調子を測る役割もある。Howellsらは、第1試技のスクワットが大会で最も重要な試技の一つである可能性を指摘している。確実に深さを満たせる重量から入りたい。
  • ベンチプレス:成功率が最も低く、上げ幅に敏感な種目である。Darraghらの分析では、男子は10kg、女子の第3試技は4kgを超えると成功率が大きく下がった。2.5〜5kg刻みの小さな上げ幅が基本になる。
  • デッドリフト:最後の種目で、第3試技の重量を2回まで変更できる。トータルや順位の状況を見て、必要な重量に調整できるのが特徴だ。

ベンチプレス単独の大会でも第3試技は2回まで変更できる。ベンチ大会の出方はベンチプレス大会に出るにはで解説した。

よくある質問

第一試技は練習のマックスの何%にすればよいですか

研究では、第1試技は第3試技(その日の最高)の約91〜92%が典型だった。ただしこれは大会当日の結果に対する割合で、練習のマックスに対する割合ではない。初出場なら、判定の基準を満たして確実に挙がる重量を選ぶのが安全だ。

第2試技の重量は後から変えられますか

変えられない。IPFとJPAのルールでは、第2試技は申請後に変更できない。スクワットとベンチプレスは第3試技も変更できず、デッドリフト(とシングルベンチ大会)の第3試技だけ2回まで変更が認められる。

次の重量を1分以内に申請しないとどうなりますか

前の試技が成功していれば自動的に2.5kg増の重量、失敗していれば同じ重量になる。

上げ幅は大きいほど危険ですか

一概には言えない。9万人超の分析では、男子のスクワットとデッドリフトは5〜20kgの範囲では上げ幅が大きいほど成功率が高まり、20kgを超えると下がった。ベンチプレスは男子で10kg、女子の第3試技で4kgを超えると成功率が大きく下がった。

第3試技はどのくらいの確率で成功しますか

IPF大会の分析(第1試技に成功した選手が対象)では、男子の第3試技の成功率はスクワット68%、ベンチプレス49%、デッドリフト59%、女子はそれぞれ65%、45%、66%だった。

KINNIKU TIMESの視点

3つの研究を並べると、重量選びの原則はシンプルだ。第1試技は「当日の最高の約9割」で確実に記録を残し、第2試技で手応えを確かめ、第3試技で小さく勝負する。世界選手権の一流選手でさえ、第2試技から第3試技への上げ幅は平均で約3%にとどめている。ジムで自己ベストを更新するときのように、気合いで10kg上げる発想とは正反対である。

日本の初心者に多い失敗は、第1試技を自己ベストに近い重量にしてしまうことだ。地方大会でも第1試技を落として焦り、残りの試技まで崩れる例は珍しくない。3回とも失敗すれば記録が残らず、全国大会の標準記録にもつながらない。最初の大会では「9本中何本成功させるか」を目標にし、トータルを確実に残すことを優先したい。自分の記録の位置づけは筋トレ偏差値で確かめられる。

競技の全体像はパワーリフティングとは、全国の大会日程はパワーリフティング大会日程2026、受付9分で定員に達した全国大会の例は日本グランプリ2026の記事にまとめている。練習で重量を管理する方法として、挙上速度を使うVBTの研究も参考になる。

JPA公式のルール・通達ページを見る

出典

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