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論文解説・新常識

徹夜1晩で筋たんぱく合成は18%低下。睡眠不足が筋肉づくりを妨げる仕組み

公開 ・ KINNIKU TIMES 編集部 ・ 読了目安 4分
白い枕と掛け布団のベッド
SUMMARY|この記事の要約

健康な若者13人が一晩眠らずに過ごした翌日、筋たんぱく質の合成速度は通常の睡眠をとった日より18%低かった。コルチゾールは21%上がり、テストステロンは24%下がっていた。

たった一晩の徹夜でも、筋肉をつくる働きは目に見えて落ちる可能性がある。研究チームが2021年に発表した実験では、一晩まったく眠らなかった翌日の筋たんぱく質合成速度が、通常どおり眠った場合に比べて18%低下していた。同時に、筋肉の分解を促す方向にホルモン環境が傾いていたことも確認された。

研究の背景:睡眠不足と筋肉の関係

慢性的な睡眠不足は代謝の乱れや筋肉量・筋機能の低下と関連することが、これまでの研究で指摘されてきた。ただし、なぜそうなるのかという仕組みは十分に分かっていなかった。Séverine Lamon氏らの研究チームは、急性の睡眠不足が筋たんぱく質の合成を鈍らせ、体を「分解」の方向に傾けるのではないかという仮説を立て、これを直接検証した。

研究デザイン:同じ人で「徹夜」と「通常睡眠」を比較

対象は健康な若年成人13人(男性7人、女性6人)。無作為化クロスオーバー試験という方法で、同じ参加者が「一晩まったく眠らない条件」と「通常どおり眠る条件」の両方を経験した。同一人物で比べるため、体質の違いによる影響を抑えられる設計である。

翌日は一日を通して、筋肉をつくる方向に働くホルモン(テストステロンなど)と、分解の方向に働くホルモン(コルチゾールなど)の変化を測定した。さらに食後の13時から15時にかけて筋たんぱく質の合成速度(FSR)を測り、13時の時点で筋たんぱく質の分解に関わる遺伝子の指標も調べた。

結果:合成は低下、ホルモンは分解寄りに

項目 徹夜による変化
筋たんぱく質合成速度 18%低下(0.072%/時 → 0.059%/時)
血中コルチゾール 21%上昇
血中テストステロン 24%低下
筋たんぱく質分解の指標 差なし

筋たんぱく質の合成速度は、通常睡眠の条件で平均0.072%/時だったのに対し、徹夜の条件では0.059%/時にとどまった。分解に関わる遺伝子の指標には差がみられなかった。研究チームは、一晩の完全な睡眠不足だけで、筋肉が栄養に反応しにくくなる「同化抵抗性」と、分解を促しやすい環境が生じるのに十分だと結論づけている。そのうえで、こうした短期的な変化が、慢性的な睡眠不足で起こる代謝の乱れや体組成の変化の前段階になっている可能性を指摘した。

通常睡眠条件と徹夜条件における血漿トレーサー濃度と食後の筋たんぱく質合成速度の比較
図:Lamon S, Morabito A, Arentson-Lantz E, et al.「The effect of acute sleep deprivation on skeletal muscle protein synthesis and the hormonal environment」Physiological Reports(2021)Figure 2(筋たんぱく質合成速度の比較)/出典:Physiological Reports/ライセンス:CC BY 4.0(改変なし)

研究の限界

対象者は13人と少なく、測定は徹夜翌日の一時点に限られる。検証したのは「一晩まったく眠らない」という極端な条件であり、日常的な「睡眠5〜6時間」程度の不足が同じ程度の影響を及ぼすかは、この研究からは分からない。また参加者は実験中に筋トレを行っておらず、トレーニング後の筋肥大が長期的にどの程度妨げられるかを直接示したものでもない。

KINNIKU TIMESの視点

どれほど綿密にトレーニングメニューを組んでも、睡眠を削っていては筋肉づくりの土台が揺らぎかねない。この研究は徹夜という極端な条件ではあるが、睡眠が「休み」ではなく、筋肉をつくる過程の一部であることを改めて示している。

忙しい時期は、睡眠時間を削ってジムに行くより、しっかり眠ってトレーニングの頻度を一時的に落とすほうが合理的な場合もある。夜更かしが続いた翌日に高重量で自己記録を狙うのは避け、就寝・起床の時刻をなるべく一定に保つことから始めたい。


出典:Lamon S, Morabito A, Arentson-Lantz E, Knowles O, Vincent GE, Condo D, Alexander SE, Garnham A, Paddon-Jones D, Aisbett B. The effect of acute sleep deprivation on skeletal muscle protein synthesis and the hormonal environment. Physiological Reports(2021)